2011-11-20

歩く瞑想/『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール


『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル

 ・無学な母親が語る偉大な哲学
 ・個別性と他者との関係
 ・ジャイナ教の非暴力
 ・観察するものと観察されるもの
 ・歩く瞑想

「100%今を味わう生き方」~歩く瞑想:ティク・ナット・ハン
ティク・ナット・ハン「食べる瞑想」

『生きる技法』安冨歩


 歩きながら、母は私に適切に呼吸をすることを教え、呼吸に細心の注意を払うようにいった。「注意を払うことが、瞑想なのよ」と母はいっていた。歩きながら瞑想するという考えを幼いうちから教えておけば、そのことで私がくじけたりしないだろうと母は考えていたに相違ない。
 私がとりわけ覚えているのは、母のこの言葉だった。「息を吸うときと吐くときの間の瞬間に気を向けなさい。息を吸ってもなく吐いてもいない一瞬を見つめるのよ。その瞬間を引き延ばそうとしたり、息を止めたりする必要はないわ、ただ見つめるのよ」
 母はこの技を、12年間瞑想を実践してきた尼僧から学んだ。ジャイナ教の尼僧や僧侶は毎日裸足(はだし)で歩き、それ以外の輸送手段は使わない。だからこそ彼らは歩く瞑想の達人なのである。私がたいした苦労もせずに母から瞑想を習うことができたのは、幸運なことだった。
「呼吸は、あなたと世界を結びつけるのよ。あなたは、同じ生命の呼吸を、同じ空気を、すべての人々と分かち合っているの。この目に見えない仲立ちを通じて、すべての人と結びついているのよ。動物、鳥、魚、植物、そして宇宙全体と同じ呼吸を分かち合っているのよ。呼吸を通じて私たちみんながつながっているとは、なんて素晴らしいことでしょう。空気には、どんな壁も境界も、差別や分離もないわ。呼吸に注意を払うことで、あなたの分離の感覚は消えてしまうのよ」
 母はこの呼吸の技について私に教えてしまうと話すのをやめ、私たちは10分から20分くらい黙って歩いた。
「足が土に触れるのと、息をするのと、どっちに注意を払えばいいの? 両方いっぺんにはできないよ」と母に尋ねたのを覚えている。
「いえ、できるわ。息をすることも歩くことも考えなければいいのよ。そういうことを考えることが瞑想ではないのよ。起こるにまかせればいいの」、時を経て初めて、私は母の言葉の意味が分かるようになった。瞑想は意識的な行為ではなく、思考や観念、手法や手段から抜け出すことなのだ。あるがままにあり、何が起こっているかに気づき、注意を払う、ということなのだ。

【『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール:尾関修、尾関沢人〈おぜき・さわと〉(講談社学術文庫、2005年)】

 人体の内部は自律神経によって制御されているが、自律神経系の中で唯一、意識的にコントロールできるのが呼吸である。

自律神経と呼吸(正しい呼吸法)

 瞑想とは集中することではない。意識が一点に集中すると周囲が見えなくなる。瞑想とは注意を払うことだ。目ではなく耳や皮膚の感覚を研ぎ澄ませて、自分の内部世界と外部世界をありのままに見つめる行為だ。

 大半の仏像が半眼なのは、あの世とこの世を見ているためとされている。具体的には意識と無意識の狭間(はざま)に佇(たたず)むことを意味する。すなわち思考から離れる作業が瞑想なのだ。

 無意識に行っている呼吸をひたと見つめる。肺胞が酸素を取り込むイメージなどもつ必要はない。ただ、鼻から吸い込んだ息が肺に向かうのを見つめればよい。

 静謐(せいひつ)の中に精神が沈潜してゆくと様々な音が聴こえてくる。外を走る車や、道ゆく人の足音、そうした全てに注意を払う。

 自身の願望や欲望、不満や怒り、誇るべきことと恥ずべきこと、それらを静かに見つめる。一切、否定も肯定もせずに。

 歩く瞑想も同じである。「今歩いている」という現実を意識しながら、骨や関節の動きに注意を払い、呼吸を調(ととの)える。これは実際にブッダもよく実践していたようだ。

 瞑想は「今」を意識することだから、何かをしながら別のことをするのが瞑想から最も遠いことになる。だから、ウォークマンやMP3プレーヤーの類いは瞑想の敵だ(笑)。

 私は昔から山男に憧れているのだが、高峰へのアタックは瞑想に近いのではないかと思う。

 瞑想とは一切に気づくことである。



等身大のブッダ/『小説ブッダ いにしえの道、白い雲』ティク・ナット・ハン
瞑想は偉大な芸術/『瞑想』J・クリシュナムルティ
瞑想とは何か/『クリシュナムルティの瞑想録 自由への飛翔』J・クリシュナムルティ
瞑想
プラム・ビレッジ(フランス)のシスターが語る気づきと瞑想
「なぜ入力するのか?」「そこに活字の山があるからだ」
英雄的人物の共通点/『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
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