2011-08-27

クー・クラックス・クラン(KKK)と反ユダヤ主義


※閲覧注意のこと。

 驚くべき動画を発見した。アメリカにおける黒人奴隷の大半はユダヤ人が所有しており、奴隷貿易を牛耳っていたのもユダヤ人だったと指摘している。





アミスタッド [DVD]アメイジング・グレイス [DVD]ルーツ コレクターズBOX [DVD]

 早速、「デイヴィッド・デューク」(デヴィッド、デビッドも)なる人物を検索したところ、何とクー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーであった。クー・クラックス・クランは白人至上主義を標榜する秘密結社だ。

アメリカでくすぶる白人至上主義勢力の実態
「ナチズム擁護派の国際的なネットワーク」というレッテルはり

 上記ページによれば、宗教面では、白人至上主義者の多くは「クリスチャン・アイデンティティ」というキリスト教を信仰している。その思想は、「聖書に書かれている『約束された民族』とは、実はユダヤ人のことではなく白人である『アーリア人』であった」とするもの。宗教的な根拠が与えられている事実が重要だ。

KKK Ceremonial Robe

KKK

the KKK rally (circa early 70's)

 デイヴィッド・デュークは静かに語りかける。その童顔からは邪気もあまり感じられない。そして歴史的な証拠に裏打ちされている。人物評価に人一倍うるさい私から見ても好人物に見える。

 紳士的な差別主義者、上品な殺人者がいるとすれば、我々は正しく認識することが難しい。そもそも認知バイアス確証バイアスを自覚することは不可能だ。

確証バイアス

 クー・クラックス・クランが過去に行ってきたことを思えば、デイヴィッド・デュークの言葉をやすやすと信じるわけにはいかない。

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 ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」(Strange Fruit)とは吊るされた黒人のことであった。



奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝 (晶文社クラシックス)Lady Sings the Blues

 こうした歴史があるからこそ、バンクシーの絵は強烈な風刺が効いているのだ。

BANKSY - Birmingham, AL

 暴力は必ず憎悪を生む。憎悪は世代から世代へと受け継がれて螺旋(らせん)を描く。そこから離れるのは容易なことではない。

 宗教という物語性の強さは毒物と似ている。かつて敵対勢力のない教団が存在したであろうか? 宗教こそが実は憎悪生産装置であるのかもしれない。

 ブッダは現実を相対化し、「一切の欲望から離れよ」と説いた。現実を突き放す営みがニヒリズムであるとすれば、それは知性やユーモアと似ている。

 仏道を実践するのであれば、自分の中で実体化された憎悪を笑い飛ばすことが求められる。憎悪する自分を見下ろし、憎悪するという行為そのものを拒絶する勇気が必要なのだ。

 最後に私がこよなく愛するニーナ・シモンの「奇妙な果実」を紹介しよう。





Don't Let Me Be Misunderstood

「KKK」加入儀式から逃亡の女性、射殺される 米ルイジアナ州

 米ルイジアナ(Louisiana)州で9日、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan、KKK)」の加入儀式を途中で離脱しようとした女性が、KKKグループの指導者に射殺された。地元当局者が明らかにした。
 この女性は、オクラホマ(Oklahoma)州タルサ(Tulsa)在住のシンシア・リンチ(Cynthia C. Lynch)さん(43)。インターネットでKKKの「Sons of Dixie(ディキシーの息子たち)」と名乗るグループのことを知り、加入儀式を受けて地元で募集活動を行おうと、バスでルイジアナ州にやって来た。
 セントタマニー(St. Tammany)郡保安官事務所やニューオーリンズ(New Orleans)の地元紙タイムズ・ピカユーン(Times Picayune)によると、リンチさんは7日に現地に到着。頭髪をそり上げるなどの儀式を行った後、ボートで沼地の中州にあるキャンプ場に移動し、たいまつに火を灯して「森の中を走り回る」などの儀式が続いたという。
 ところが9日の夕方になって、リンチさんは加入儀式からの離脱を決意。グループの指導者レイモンド・「チャック」・フォスター(Raymond "Chuck" Foster)容疑者(44)と口論になり、フォスター容疑者が40口径の拳銃でリンチさんを射殺した。地元保安官によると、フォスター容疑者はリンチさんの遺体からナイフで弾丸を取り出し、メンバーにリンチさんの所持品を燃やした後で遺体を付近の道路に捨てるように命じた。
 犯行が発覚したのは、フォスター容疑者の息子ともう1人のメンバーが10日、地元のコンビニエンス・ストアを訪れ、衣服から血痕を取り除くにはどうしたらいいかと店員に尋ねたことがきっかけだった。男たちに見覚えがあった店員が保安官事務所に通報し、逮捕につながったという。

AFP 2008-11-13

公民権運動の母ローザ・パークスとバス
エリザベス・エックフォードを罵ったヘイゼル・ブライアント
日米同時バス内差別
恐怖で支配する社会/『智恵からの創造 条件付けの教育を超えて』J・クリシュナムルティ
ナット・ターナーと鹿野武一の共通点/『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン黒人奴隷の生と死/『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
黒船の強味/『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八

金色の海

Surf

2011-08-26

「キリスト教征服の時代」から脱却する方途を探る


 キリスト教の後に犯罪の思想的正当化の試みは啓蒙主義自由主義によって行われ、フランシス・ベーコンシャルル・ド・モンテスキューデイヴィッド・ヒュームらはインディオを「退化した人々」とし、ヨーロッパ人による収奪を正当化した。19世紀に入ると、「近代ヨーロッパ最大の哲学者」ことヘーゲルはインディオや黒人の無能さについて語り続け、近代哲学の立場から収奪を擁護した。(スペインによるアメリカ大陸の植民地化

 レコンキスタ(718-1492年)からアメリカ大陸の植民地化(15-17世紀)、そして21世紀になっても、まだ征服の歴史は続く。虐殺されたアメリカ先住民は1000万~2000万人といわれる。

 ヨーロッパ列強による植民地化は奴隷化を意味しており、アメリカ先住民の場合は殲滅されたといっても過言ではない。

 少し前に「何が魔女狩りを終わらせたのか?」という一文を書いた。近代は白人同士の殺し合いを有色人種の殺戮に置き換えたように感ずる。

 第二次世界大戦後に米ソ冷戦構造となるが、パックス・アメリカーナの時代が長くなるほど、歴史における冷戦の意味は軽くなる。

 レコンキスタ-十字軍-アメリカ大陸の植民地化と一本の線を引けば、「キリスト教征服の時代」であることが明らかだ。

十字軍 意外にウロ覚えな彼らの目的と実態
十字軍の暗黒史

 十字軍の遠征によって中東から西ヨーロッパへ知識が輸入される。これが後にルネサンスを導くこととなった。更に資金調達のために徴税制度を発達させたことが見逃せない。国家の枠組みを規定するのは軍事と徴税である。

 近代の定義は国民国家の形成と資本主義の成立である。これをシンボリックに体現した国家がアメリカだ。そして近代はキリスト教信仰からプラグマティズムへのスライドを意味した。ここに民主主義と合理主義という新たな宗教が台頭する。

 とするとアメリカ建国の歴史に近代の縮図があると考えてよかろう。

 ここからポストモダンの道標はおのずと導かれる。すなわち国民国家を超えた枠組みの提示と、資本主義=広告会社が扇動する大衆消費社会の否定である。

 はっきり言って無理だ(笑)。これを実現するとなれば、それこそ核兵器以上に強力で、コレラよりも伝染性の高い宗教が必要だ。

キリスト教を知る

インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)インカ帝国の滅亡 (岩波文庫)インカの反乱―被征服者の声 (岩波文庫)メキシコ史 (文庫クセジュ)

アメリカ・インディアン悲史 (朝日選書 21)ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)アメリカン・ドリームという悪夢―建国神話の偽善と二つの原罪『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈上〉1492~1901年学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈下〉1901~2006年アメリカ・インディアン―奪われた大地 (「知の再発見」双書 (20))

インディアス史〈1〉 (岩波文庫)インディアス史〈2〉 (岩波文庫)インディアス史〈3〉 (岩波文庫)

インディアス史〈4〉 (岩波文庫)インディアス史〈5〉 (岩波文庫)インディアス史〈6〉 (岩波文庫)インディアス史〈7〉 (岩波文庫)

マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康

2011-08-25

三島由紀夫の遺言


 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。
 このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。
 日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。

【「果たし得ていない約束」三島由紀夫/サンケイ新聞 昭和45年7月7日付夕刊】

文化防衛論 (ちくま文庫)

日英同盟を軽んじて日本は孤立/『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯

志は千里にあり


 老驥(ろうき)櫪(れき)に伏(ふ)するも 志(こころざし)は千里にあり
 烈士(れっし)は暮年(ぼねん)にも 壮心已(とどめ)あえず

【「歩出夏門行」曹操】

「歩みて夏門(かもん)を出ずる行(うた)」
曹操の詩
「歩みて夏門を出ずる行」に思う

中国古典 リーダーの心得帖  名著から選んだ100の至言  角川SSC新書 (角川SSC新書)

「ねえねえ、僕にも見せてよ」


 小首の傾(かし)げ方が絶妙だ。
Library Friends for Benji

占いは神の言葉/『重耳』宮城谷昌光


 ・占いこそ物語の原型
 ・占いは神の言葉
 ・未来を明るく照らす言葉

『介子推』宮城谷昌光

 行動は心の発動から起こる。これを志という。動機という言葉は目先の損得勘定が走っている。昨今流行っているモチベーションという語は動機づけの意であり、管理職による条件づけにすぎない。

 そして物語は志から始まる。

「射は、人格そのものといえます。正しければ、中(あた)り、正しくなければ、中りません。矢には邪悪なものを祓(はら)う力があり、その矢をもって周王を護り、外敵をしりぞけるのが、侯なのです」

【『重耳』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(講談社、1993年/講談社文庫、1996年)以下同】

 技だけでは及ばぬ世界がある。心を調(ととの)えるには生活態度を変えなくてはならない。すなわち生き方を改める必要がある。

「射」は技である。それを人格にまで持ち上げ、正邪という色彩を施すところに物語が生まれる。後の世となるが李広将軍は石に矢を立たせた。

 この巻において結構の前半と後半を分かつ占いが行われる。

 出師にさきだってかならず占いをおこなう。戦争は国の大事であるから、亀の甲を焼き、そのひびで占う卜(ぼく)という占いの方法をもちいる。

 出兵を出師(すいし)という。

 史蘇〈しそ〉としても意外であったのだろう、どこか割り切れぬ表情であった。兆(ちょう)の形はおそらく百通りほどあり、むろん史蘇の頭のなかにはそれらのすべてが記憶されていて、その兆を自分のことばにおきかえるためには、故事に精通していなければならない。実例のつみかさねの上に兆の形によって予言をおこなうところに確実性がある。

 史蘇〈しそ〉は史官である。故事とは古い物語である。しかしながら占いは裁判の判例とは異なる。時流を踏まえた上で、目指すべき星を示さなくてはならない。

 史蘇〈しそ〉には詭諸〈きしょ〉の出陣を止める力はない。が、占いをおこなった者は腹蔵のないことを吐露する義務がある。それをとりあげるかどうかは、君主しだいである。
「さいごに申し上げます。民を離そうとするものが、君のもとにはいってくるときは、かならず甘く、その快さによって、害であることがわかりませんから、防ぎようがありません」
 と、史蘇は恐ろしいことを大胆に予言した。
 兆(ちょう)だけをみて、これだけのことを、確信をもっていえるというところに、史蘇の天才ぶりをみることができる。

 何と女難の予言であった。詭諸〈きしょ/重耳の父親〉は驪姫〈りき〉を寵愛し、後嗣(こうし)を巡る争いは血生臭さを帯びた。

 史蘇〈しそ〉の占いは空しい諫言で終わった。

「穢(けが)れのないところにしか神は降り立ちません。純正な史官のことばは、神のことばであり、それを聴く方も心を端(ただ)さねばなりません」
 と、小さな力を口調にこめていった。
「端すとは──」
「雑念を去ることです。あるいは親のことばを聴く子どもの心に帰ることです」

 これは重耳と師である郭偃〈かくえん〉のやり取り。やや鈍重な重耳には虚心坦懐さがあった。ここでいう「神のことば」とは、宗教的な絶対性というよりも「歴史における信号機」のような役割を意味するものと思われる。

 驪姫〈りき〉は我が子を後継に据えようと優施〈ゆうし〉と結託し策謀を巡らす。長男の申生〈しんせい〉は殺され、逃亡した重耳には閻楚〈えんそ〉という刺客が送り込まれる。

 ──たった一人の女が……。
 と、士蔿〈しい〉は信じられぬおもいにうちのめされる。あれほどうまくいっていた父子と君臣との仲が、たった一人の女によって、それぞれずたずたに引き裂かれようとしている。

 重耳の19年に及ぶ放浪が始まった。

重耳(上) (講談社文庫)重耳(中) (講談社文庫)重耳(下) (講談社文庫)

2011-08-24

男前のカラス

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飛び立つカラス

ティク・ナット・ハン


 挫折2冊。

法華経の省察 行動の扉をひらく』ティク・ナット・ハン:藤田一照〈ふじた・いっしょう〉訳(春秋社、2011年)/初心者向け。過去の踏襲といったレベルで思想的な飛躍がない。

怒り 心の炎の静め方』ティク・ナット・ハン:岡田直子訳(サンガ、2011年)/ニューエイジ的な説法。言葉が弱い。ティク・ナット・ハンは『小説ブッダ』一冊で十分か。

抱擁


 抱擁――それは張り裂けそうな胸を重ねる行為。悲しみの鼓動を引き寄せる仕草。万感の思いを無言で伝える行動。

Sculpture

Wunsch von NAH

悩む人と励ます人

2011-08-23

吉井妙子


 1冊読了。

 52冊目『天才は親が作る』吉井妙子(文藝春秋、2003年/文春文庫、2007年)/ダイノジ大谷が紹介していた本。天才と称されるプロスポーツ選手の親子関係を描いたノンフィクション。小学生以下のお子さんがいる人は必読。過剰なまでの親の情熱が凄い。10人のアスリートに共通するのは、幼児期に裸足で過ごしていること。また幼い頃から主体性を尊重されながら育っている。スポーツというよりも、スポーツを通した教育が花開いたといってよい。

乞い人


 車の窓が世界を隔絶している。手を伸ばせば届く位置にいながら絶対に届かない距離が存在する。無慈悲と残酷に覆われた世界。

monsoon times..

koi

せめて「小銭か微笑みを」
地に臥して乞う者

2011-08-22

古代ギリシャでは詩作が学問の原点だった


 古代ギリシャでは、人間にとって大切と思われた知識は、もとはすべて詩の中に盛り込まれ、詩人たちによって記憶された。さまざまな学問は、詩から次第に分化して、独立していったものである。
 詩作は、学問の原点だった。

【『面白いほどよくわかるギリシャ神話 天地創造からヘラクレスまで、壮大な神話世界のすべて』吉田敦彦(日本文芸社、2005年)】

面白いほどよくわかるギリシャ神話―天地創造からヘラクレスまで、壮大な神話世界のすべて (学校で教えない教科書)

2011-08-21

シンメトリー的因果応報


 自殺防止センター(CVV)のポスターのようだ。「あなた自身を助けよ」と。ポジとネガを反転させるだけで、救いを求めている自分が助ける自分へと変化している。シンメトリー的因果応報だ。「あ、なーんだ、自分を切り抜いてひっくり返せばいいんだ!」と思わせる発想の転換が凄い。実に妙味のあるポスターだ。

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どう生きたらいいかを考えさせる本


どう生きたらいいかを考えさせる本:finalventの日記

 この飄々とした軽やかさは中々出せるものではない。finalvent氏といえば「極東日記」で知られる超大物ブロガーだが、少し前に私の方から喧嘩を売ったところ、敢えなくコテンパンにされた次第。






 弁当兄さん(finalvento氏の愛称)のラインナップは意外なものだった。闊達な文章でありながら、私の食指が動くものはない。ま、所詮好みの問題だわな。

 張り合うつもりは毛頭ないのだが、「自分だったら何をオススメするかな」と考えてみた。

 まず、人生は幸福よりも自由を求めるべきであるというのが私の基本的なスタンスである。大前提として人生とは不如意なものであり、不条理がつきまとう。そして自由をテーマに掲げると、必ず暴力の問題に行き当たる。強い者が弱い者を食い物にするのが社会の実相だ。

 格差がどうの、いじめがどうの、福島がどうのと皆が奇麗事を並べ立てる。だが本当は自分のことしか考えていない。そんな人間は感受性が麻痺しているため、どんなに素晴らしい作品を読んだところで生き方を変えることは難しい。

 打ちひしがれた経験を持つ者、心に傷を負った者、のた打ち回る苦しみを知る者だけが、深い共感から人生の幅を押し広げてゆくことができる。

 最初に2冊。『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行〈こうの・よしゆき〉(文藝春秋、1995年/文春文庫、2001年)と、『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子(河出書房新社、1997年/河出文庫、2002年)。

 河野さんはオウム真理教と警察とメディアの被害者で、山下さんは酒鬼薔薇事件で愛娘を喪った。これほどの不条理はない。ところがこのお二方は、深い静けさを湛(たた)えた瞳で事件を見つめる。そして看病という行為の中から、生命の尊厳性を鮮やかにすくい上げる。「市井(しせい)の庶民にこれほどの人物がいるのか!」と驚嘆したことをありありと覚えている。

「疑惑」は晴れようとも―松本サリン事件の犯人とされた私彩花へ―「生きる力」をありがとう

『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子

 ここでちょっと角度を変えよう。人間心理のメカニズムに光を当てた2冊。『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル:小此木啓吾〈おこのぎ・けいご〉訳(フォー・ユー、1987年)と、『服従の心理』スタンレー・ミルグラム:山形浩生〈やまがた・ひろお〉訳(河出書房新社、2008年/同社岸田秀訳、1975年)。

『生きぬく力』は強姦や拷問を経験した人々がどのように乗り越えたかが描かれている。絶望的な極限状況からの生還といっていいだろう。過重なストレスをコミュニケーションで解決する模様が紹介されている。『服従の心理』は社会心理学のバイブルである。本書によって心理学は科学的地位を確保したといっても過言ではない。ヒエラルキーに額(ぬか)づき、いじめに同調する人間心理を理解することができる。いつ自分が「電流を流される側」になるかわからない。だからこそ読む価値がある。

生きぬく力―逆境と試練を乗り越えた勝利者たち服従の心理

ストレスとコミュニケーション/『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
服従の本質/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム

 そして、とどめの3冊だ。『一九八四年』ジョージ・オーウェル:高橋和久訳(ハヤカワ文庫、2009年)と、「黒い警官」ユースフ・イドリース:奴田原睦明〈ぬたはら・のぶあき〉訳(『集英社ギャラリー〔世界の文学〕20 中国・アジア・アフリカ』1991年、所収)、『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』レヴェリアン・ルラングァ:山田美明訳(晋遊舎、2006年)。

『一九八四年』は新訳で。情報と暴力が人間をどのようにコントロールし得るかを描いた傑作。ウィンストン・スミスは少なからず勇気のある人物である。その彼が崩壊してゆく姿を凄まじいリアリズムで描写している。「黒い警官」はエジプトで実際にあった警官による拷問を小説化した作品だ。暴力の獣性を凄まじい迫力で暴いている。そして『ルワンダ大虐殺』は私の人生を変えた一書である。運命と宿命の欺瞞を思い知った。出口のない暗闇にあっても尚、人は生きてゆかねばならない。著者が生きているという事実が唯一の光明である。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)中国・アジア・アフリカ/集英社ギャラリー「世界の文学」〈20〉ルワンダ大虐殺 〜世界で一番悲しい光景を見た青年の手記〜

現在をコントロールするものは過去をコントロールする/『一九八四年』ジョージ・オーウェル
暴力が破壊するもの 1/「黒い警官」ユースフ・イドリース(『集英社ギャラリー〔世界の文学〕20 中国・アジア・アフリカ』所収)
『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』レヴェリアン・ルラングァ

 私はレヴェリアン・ルラングァから真の懐疑を学び、そこからクリシュナムルティに辿り着いた。その意味ではルワンダの悲劇が私の眼(まなこ)を開かせたといってよい。最終段階としては、ブッダの初期経典(中村元訳)とクリシュナムルティの共通性を探るのが私のライフワークである。

 でもまあ、本気で人生を考えるのであれば120冊程度は読んでおきたい。

私を変えた本