2013-09-01

消費を強制される社会/『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード


 ・消費を強制される社会
 ・機能の廃物化、品質の廃物化、欲望の廃物化

『メディア論 人間の拡張の諸相』マーシャル・マクルーハン
『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン

 電通の戦略十訓は本書によって作られたという。

1.もっと使わせろ
2.捨てさせろ
3.無駄使いさせろ
4.季節を忘れさせろ
5.贈り物をさせろ
6.組み合わせで買わせろ
7.きっかけを投じろ
8.流行遅れにさせろ
9.気安く買わせろ
10.混乱をつくり出せ

Wikipedia

電通過労自殺事件/『自殺のコスト』雨宮処凛
小田嶋隆による『広告批評』批判 その一/『罵詈罵詈 11人の説教強盗へ』小田嶋隆
ハゲ頭に群がるカツラメーカー/『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆

 その昔、味の素が売り上げを伸ばすために穴を大きくしたという都市伝説があった。同社公式サイトによれば「湯気による目詰まりを防ぐために、従来の“卓上瓶”に比べて口の面積を広くし、穴の数を増やしました。このことが、おもしろおかしく伝えられたものだと思われます」とのこと。

 戦略十訓は統治者の言葉遣いである。電通は消費者を「支配される者」として捉えている。広告代理店の仕事は大衆の欲望をコントロールすることなのだろう。

 生産をつづけるために消費を人工的に刺激しなければならないような社会は、屑やむだの上につくられた社会である。そして、そのような社会は砂上の楼閣である。
  ――ドロシー・L・セイヤーズ

【『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード:南博、石川弘義訳(ダイヤモンド社、1961年/原書、1960年)以下同】

Portrait Round Robin

 ドロシー・L・セイヤーズはただの推理小説作家ではなかった。キリスト教人道主義者だったらしい。とすると上の言葉は複雑度を増す。プロテスタントの労働倫理が絡んでいる可能性が高い。

 明日の世界は、どういうものになるのだろうか?
 この本で、われわれは現在の潮流から想像されるいくつかの可能性を検討することにしよう。産業界のスポークスマンたちは、とりわけ明日について空想したがる。彼らは地平線の彼方をのぞきこんで、マーケティングの専門家がわれわれのために考えてくれるすばらしい製品を眺めるように、われわれに呼びかけている。われわれは彼らと同じ夢をみるようすすめられる。そうして、音声タイプライター、壁いっぱいのテレビ・スクリーン、リモートコントロールでハイウェイをすべるように走る自動車等が使えるようになることをうずうずしながら待つようにさせられる。

 蝶が舞うような文章である。予測し得ない優雅な動きが視覚を快感へ導く。

 広告代理店は明日の青写真を提供する。現代においては戦争のシナリオまで書いている。

『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』高木徹
湾岸戦争へと導いたナイラの証言

 旧ソ連を始めとする社会主義国は滅んだわけだがプロパガンダは生き延びた。より強靭な体質となって。

 欲望がコントロール可能である事実は行動経済学でも明らかとなっている。

比較トラップ/『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー

 それどころか社会心理学の実験では人々の判断も容易にコントロール可能であることが判明している。

アッシュの同調実験/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
服従の本質/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
服従心理のメカニズム/『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス

 アメリカ国民は、ある意味で、虎にまたがった国民になりつつある。彼らはますます消費することを学ばなければならない。さもないと、彼らの巨大な経済のからくりが、彼らに刃向い、彼らをむさぼり食らうかもしれないと警告されているのである。彼らは、もっともっと個人としての消費を高めるように要求され、しむけられなければならない。それは、彼らが商品にたいして差し迫った要求をもっているかどうかには関係ない。日に日に拡大する経済が、それを要求するのである。

 消費は加速することでしか満足を得られない。「日に日に拡大する経済」とは減ることのない利子によって構成される世界だ。

利子、配当は富裕層に集中する/『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』河邑厚徳、グループ現代

 もっと意味を広げれば、大部分のアメリカ人が、「浪費をつくり出す人々」になりつつあると言ってもいいだろう。

 ここに環境破壊の根本要因がある。もともと硬貨を鋳造するためには膨大な樹木を燃やす必要があった。鉄鋼生産が更に拍車をかける。

 今日、アメリカの平均的な市民は、第二次大戦直前に比べると2倍の消費をしている。

 これが1960年のアメリカだ(原著刊行年)。既に半世紀以上が経っている。消費が行き着く先は金融と戦争である。そろそろ「地球環境を消費している」事実に気づいてもいい頃合いだろう。



図表で読み解く ニッポンのゴミ(PDF)
失業と破産こそ資本主義の生命/『小室直樹の資本主義原論』小室直樹
煩悩即菩提/『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー

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