2014-01-08

怒りは害を生む/『怒りについて 他一篇』セネカ:茂手木元蔵訳


『人生の短さについて』セネカ:茂手木元蔵訳

 ・怒りは害を生む

 ノバトゥスの兄上、あなたは私を動かして、一体どうすれば怒りは静められるかについて書くように求めたが、あらゆる感情のうちで取りわけ疎(うと)ましく気狂いじみたこの感情を、特にあなたが恐れているのは無理からぬことと思う。なぜかと言えば、これ以外の感情には何らかの安らかさ・静かさも含まれているが、この感情だけは全く激烈であって、憎しみの衝動に駆(か)られて、武器や流血や拷問(ごうもん)という最も非人間的な欲望に猛り狂い、他人に害を加えている間に自分を見失い、相手の剣にさえも飛びかかり、復讐者(ふくしゅうしゃ)を引きずり回して、是が非でも復讐を遂げさせようとするからである。それゆえ或る賢者たちは、怒りを短期の気狂いだと言っている。

【「怒りについて」/『怒りについて 他一篇』セネカ:茂手木元蔵〈もてぎ・もとぞう〉訳(岩波文庫、1980年)】

 昨年暮れに兼利琢也〈かねとし・たくや〉訳(岩波文庫、2008年)を中ほどまで読んだ。セネカの崇高な精神が降りしきる雨のように私を打った。本を閉じて目をつぶった。「襟を正して最初から読み直すべきだ」と思わざるを得なかった。ブッダとクリシュナムルティを除けば、これほど心を揺さぶられたことはない。セネカは生きる姿勢や態度を教えてくれる。

 勢いあまった私は茂手木元蔵訳から取り組むことにした。正解であった。実は内容が異なるのだ。茂手木訳の他一篇は「神慮について」で、兼利訳の他二篇は「摂理について」と「賢者の恒心について」となっている。もちろん2冊とも「必読書」に入れた。

 翻訳比較も行う予定なので冒頭のテキストから紹介する。尚、まだ読了していないことを付記しておく。

「気狂い」はルビを振っていないが「きちがい」と読んで差し支えないだろう。怒りは害を生む。怒りはすべてを忘れさせ、相手を傷つけ、自分を損なう。セネカはあらゆる角度から怒りを論じ、数多くの絶妙な比喩を示して怒りを解明する。賢明さが理性とセットであれば、怒りは愚かとセットなのだろう。

 直情径行で怒りやすい性格の私であるがゆえにわかるのだが、怒りは常に殺意を伴っている。人を殺すことは簡単だ。「殺すことが正しい」と思えば。あるいはそう「思い込ませれば」よいのだ。その瞬間、理性はどこかへ去っている。相手の家族や友人を思うほどの余裕もない。怒りは崩壊の音色を奏でる。あらゆる暴力は怒りに支えられていることを知るべきだろう。

 セネカの前では三木清の言葉も色褪せる。

蛇の毒/『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳

 三木は弱い人間であったのだろう。だからこそ怒りにしがみついたのだ。

 おお、ルキウス・アンナエウス・セネカ(紀元前1年頃-65年)よ、私はブッダとクリシュナムルティを父と恃(たの)み、あなたを兄と慕う。

 もうひとつ付言しておくと、『人生の短さについて 他二篇』茂手木元蔵訳(岩波文庫、1980年)と『生の短さについて 他二篇』大西英文訳(岩波文庫、2010年)は茂手木訳の方が断然よい。

怒りについて 他一篇 怒りについて 他二篇 (岩波文庫)

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