2014-03-29

教団内部の政争/『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也


『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし
『杉田』杉田かおる
『小説 聖教新聞 内部告発実録ノベル』グループS
『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』矢野絢也
『「黒い手帖」裁判全記録』矢野絢也

 ・教団内部の政争

 創価学会にまつわる数々の事件で汚れ仕事をやらされてきた著者が赤裸々に舞台裏を綴った手記である。矢野絢也のネゴシエーター振りは国税庁との攻防で見事に発揮されており、政治家としての力量が窺える。

 教団内部の政争が醜悪極まりない。それでも優れた読み物になっているのは著者の筆致が抑制されているからだ。声高に創価学会を糾弾することもなく、事実を淡々と綴っている印象が強い。

 創価学会の体質は巨大企業というよりは暴力団に近い。さしずめ創価一家といったところだろう。組長である池田大作を守るためなら、どの幹部であろうとも鉄砲玉のように扱われるのだ。矢野絢也も結果的にその一人となった。

 マンモス教団の乱脈経理にメスを入れるべく国税庁は池田大作の公私混同を問題視していた。全国の創価学会会館に設置されている池田のプライベートルームや、実質的に池田の別荘と化している各地の研修道場、そして海外要人への高価なプレゼントや公明党議員への報奨金および創価学会員への小遣いなど。


 国税庁との窓口は矢野が担当し、矢野はあらかじめ竹下元首相などに国税庁への働きかけを依頼していた。

 その5日後の4月18日、竹下元首相からの一本の電話は私を狂喜させた。竹下氏のちからをまざまざと見せつけるものだった。竹下氏は、事実上、(※第二次税務調査の)税金をゼロにするよう国税庁首脳部を説き伏せていたのだ。
「国税庁には“心にまで課税できない”と言っておいた。源泉徴収義務を怠った程度の扱いで収める。学会の山崎尚見〈やまざき・ひさみ〉副会長には“矢野さんの力でできたことだ”と話しておく。だが、山崎には、今後も注意するようにと言っておく」
 山崎氏は学会の政治担当で、公明党だけでなく、自民党首脳らとも接触していた。山崎氏は、竹下氏に以前から米などを付け届けしていた。このときはおそらく池田氏と秋谷氏の指示で、私とは別に念押しのために竹下氏と接触していたようだ。
 私は竹下氏に「ありがとうございました。ご恩は忘れません」と繰り返しお礼を言い、電話機に向かって何度も頭を下げた。

【『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也〈やの・じゅんや〉(講談社、2011年)】

 元々創価学会は困ったことがあると自民党代議士に泣きついてきた。言論出版妨害事件の際は田中角栄に仲裁を依頼している。

 ところがあろうことか公明党と創価学会はあっさりと竹下を裏切る。

 世論の激しい批判にさらされた金丸氏は10月14日、遂に議員辞職に追い込まれ、竹下派会長も辞任。竹下派では後任の会長を巡り、会長代行の小沢氏のグループと反小沢の小渕副会長のグループが激しく対立し、年末の竹下派分裂に突き進む。
 一方、皇民党事件に関連して、金丸、竹下両氏の国会証人喚問を求める声が高まり、竹下氏に対して議員辞職を求める声が政界から沸き起こった。
 竹下氏の議員辞職要求の先頭に立ったのは、こともあろうに学会への第二次税務調査潰しを竹下氏に頼んだ公明党の石田委員長だった。
 石田氏は14日の記者会見で「総裁選への暴力団関与は、民主政治の根幹に関わる問題だ」として、竹下、金丸両氏の証人喚問による真相解明に全力を上げることを表明、あわせて竹下氏の進退に言及し「議員辞職に値する」と言い切った。野党党首が竹下氏に議員辞職を求めたのは初めてで、これをきっかけに他の野党や自民党内からも竹下氏の議員辞職を求める声が相次いだ。
「公明党は竹下にきつい」という宮沢首相側近の指摘どおりの展開になったわけで、竹下氏の側近からさっそく私に抗議が来た。
「お宅の石田委員長がいちばん先に竹下辞任の口火を切ったが、どういうつもりか。恩知らずとはこのことを言うんだ」
 私は「マスコミに聞かれて、つい言ってしまったようだ」と苦しい弁明をしたが、私自身も石田氏の発言に腹を立てていた。私はすぐ竹下氏に連絡して謝罪した。石田発言によって追い詰められた竹下氏は不機嫌で「なぜ、よりによって石田に言われなければならないのか」と憮然としていた。(中略)
 しばらくすると竹下氏から電話があった。竹下氏は、懸命に心を静めようとしているらしく、いつもの淡々とした口調に戻っていた。竹下氏は私と話す前に学会の山崎副会長と話したという。
「山崎に私のほうから電話をして、自分の心境を話した。山崎は、石田に事情を聞いて連絡をすると話していた。学会との関係は変えたくないと思っている」
 だが翌日になっても山崎副会長は竹下氏に電話一本かけなかったという。
 山崎氏は、学会の政治担当として、第二次税務調査をはじめ問題があるたびに竹下氏にすがっていた。池田名誉会長個人の脱税問題では、竹下氏の力添えで脱税をもみ消してもらい、山崎氏も竹下氏に感謝していた。
 ところが竹下氏が政治的に追い込まれるや態度を一変させ、助け舟を出すどころか逆に追い落としにかかった。学会・公明党の首脳たちは冷酷、非情と言われても仕方がなかろう。

 創価学会は下衆の勘繰りをし「国税は竹下がけしかけたのではないか」と考えたのが真相のようだ。平然と恩を仇で返すところに創価学会の政治性があり、その後公明党が与党入りをしたことも納得がゆく。

 学会の裏切りを目のあたりして、さすがの竹下氏も「学会もわからないところだ」と憮然たる様子で私に愚痴を言った。
「山崎から連絡が来ない。私は文句を言った訳ではなく心境を話しただけなのになあ」
 私が言葉に窮していると、竹下氏は、国税庁の坂本前本部長が竹下氏のところに押しかけてきたことを明かした。
「坂本が私のところに来た。“我慢して便宜を図ってやったのに学会は許せない”といきりたっていた。私は“宗教は心の問題だから課税しないでいい”となだめておいた」
 それでも坂本氏は収まらず「ルノワール事件は今後、問題になる」と仕返しをほのめかすなど、怒り心頭だったそうだ。

「マムシの坂本」の異名を持つ坂本導聡〈さかもと・みちさと〉国税庁直税部長は竹下の側近であった。

 創価学会内部から国税庁に投書が寄せられているというのだから教団の腐敗ぶりが目に浮かぶ。日本一のマンモス教団が凋落するのも時間の問題だろう。私は戦後から高度経済成長期にかけて創価学会と日本共産党には一定の役割があったと考えているが、既に双方とも役割は果たし終えたものと見ている。

 公明党は大衆福祉を掲げて設立されたわけだが、国民の見えないところで消費税導入にも賛成していた事実が書かれている。政界で魑魅魍魎(ちみもうりょう)に魂を売ってしまった宗教者の成れの果てが哀れだ。権力が腐敗するように、巨大化する組織も腐敗を免れないのだろう。

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