2014-04-10

浪花千栄子の美しい言葉づかい/『ちくま哲学の森 1 生きる技術』鶴見俊輔、森毅、井上ひさし、安野光雅、池内紀編


 ・落語とは
 ・浪花千栄子の美しい言葉づかい
 ・死の恐怖

浪花●だんだんバタのにおいがプンプンしてくる世のなかになってまいりましたけど、あたくしなんか、ドブヅケ(ぬかみそづけ)のにおいがプンプンいたしますんでございます。まだドブヅケたべてくれはりますあいだは、つづけていかれるやろおもてますけど、そのうち、ドブヅケはすみへすみへ追いやられてしまうことになりまっしゃろうと思いましてね、心ぼそいかぎりでございますねん。

【対談 浪花千栄子〈なにわ・ちえこ〉・徳川夢声〈とくがわ・むせい〉/『ちくま哲学の森 1 生きる技術』鶴見俊輔、森毅〈もり・つよし〉、井上ひさし、安野光雅〈あんの・みつまさ〉、池内紀〈いけうち・おさむ〉編(筑摩書房、1990年/ちくま文庫、2011年)】

 浪花千栄子は8歳の時から奉公に出され、教育を受けることができなかった。苦労しながら独学で読み書きを学んだ。美しい大阪弁を話すことで知られる女優と思っていたところ、正確には船場言葉というそうだ(大阪弁完全マスター)。私と同世代であっても浪花千栄子を知る人は少ない。でも「オロナイン軟膏の看板」は殆どの人が知っているはずだ。


 浪花の本名は南口〈なんこう〉キクノという。ここから「軟膏効くの」に因(ちな)んで起用された。

 バタとはバターのこと。確かバルザック著『「絶対」の探求』にも「バタ」という表記があったように思う。今でも「バタ臭い」という言葉で残っている。

 文字を読めなかったがゆえに言葉を大切にした人なのだろう。それにも増して人を大切にしてきたのだろう。言葉づかいは作法というよりも流儀である。その美しい心に思いを馳せる。

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