2014-06-10

日本の資産がアメリカに奪われる理由/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓

大英帝国の没落と金本位制
・日本の資産がアメリカに奪われる理由
ドル基軸通貨体制とは

 もう少し踏み込んで考えてみよう。モノを購入する際の各国のお金の出入りを考える世界の貿易収支というものは、そもそもはゼロサムである。自国製品を売った代金が入ってくることで、ある国の終始がプラスになったということは、モノを買った国では支払いが生じるためマイナスとなる。つまり、世界全体のトータルでみればプラス・マイナス・ゼロである。
 米国の大量消費の体質に便乗して、日本が対米輸出によって経済成長を謳歌してきた経緯は戦後ずっと続いたわけで、日本の経常収支がプラスになる分、米国の対日貿易赤字も同様に増え続けたということになる。
 極論ではあるが、1980年台に取り沙汰された問題は(そして今でも問題とされるのに変わりはないのだが)、米国の貿易赤字の増加ということ以上に、本質的な問題は貿易赤字の米国に黒字国の日本から資金還流せよという点だったといえよう。
 日本が製品を作り、米国が消費する。お金を受け取るだけの日本と支払うだけの米国、これでは日本の方に一方的にお金が溜まっていってしまう。一時的に日本経済自体は資金が滞留して潤うかもしれないが、米国が大量消費をしてくれればこその日本。消費に回す資金が米国で枯渇すれば、買い手不在となる日本の経済は遅かれ早かれダメージを受ける。1970年代、モノを作ることを早々に放棄して、消費大国の借金体質となった米国にしてみると、世界のモノを自分たちが消費すればこそ世界経済は回っているという自負心がある。ちなみに、外務省が発表する主要経済指標によれば2008年の世界の名目GDPを見ると、1位は米国の14兆2043億ドル。全世界のGDPの23.4%を占めており、現在でも圧倒的なシェアである。欧州圏としては30.2%、アジア圏としては22.0%と対抗できるものの、国単位でみれば、今でも世界経済の頼みの綱は米国なのである。
 我々のところにお金が入ってこなければあなたたちの作ったモノは買えなくなる。それでよろしいのですか? と米国から日本が突きつけられたのがプラザ合意であり、対米輸出に依存してきた日本は、たとえ為替レートの変動する方向が自国の輸出にとってマイナスでも、合意について首を縦に振らざるを得ないというのが実情だったろう。
 そして、プラザ合意のもとで、為替市場でドルが十分売られた状況となれば、今度は日本の輸出産業保護の名目で日銀がドル買い介入を実施する大義名分が整う。日本国として購入したドルを米国債の買い入れの資金に回せば米国側に日本の資金を還流させることができる。

【『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2010年)】


(プラザホテル、以下同)

 1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルでG5(先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議)による為替レート安定化の合意がなされた。ホテルの名をとってプラザ合意と呼ばれる。ドル安誘導が合意されたわけだが、「アメリカの対日貿易赤字が顕著であったため、 実質的に円高ドル安に誘導する内容であった」(Wikipedia)。つまり日本が狙い撃ちにされたわけだ。ドル円レートは235円から20円下落し、1年後には150円台で取引されるようになった。これだけで対日貿易赤字は63.8%に圧縮される。そして日本の対米貿易黒字も同じく圧縮される。これが為替マジック。

 関税を無視すれば日本の消費者にとって米国製品は安くなるのでお買い得。一方、アメリカ人の場合は日本製品の値上げを意味する。

 岩本沙弓はこれを「アメリカの借金棒引きシステム」と喝破した。



 すなわちプラザ合意とは、アメリカが日本に対して235円の借金を150円に下げさせた歴史なのだ。その後日本経済はバブル景気へ向かう。三菱地所が2200億円でロックフェラー・センターを購入し、安田火災海上保険(現在は損保ジャパン)が58億円でゴッホのひまわりを落札した。日本の不動産は上昇の一途を遂げ、東京山手線の内側の土地価格でアメリカ全土を買えるまでに至った。


 日銀の為替介入で買われたドルは米国債購入に当てられる。しかも為替介入の原資となっているのは国民の資産なのだ。財務省~日銀は国民の与(あずか)り知らぬところで数兆円規模のカネを勝手に使っている。これについては日を改めて書こう。

 大きすぎる嘘は見えない。アメリカが「オレ、オレ……」と電話をしてくれば、スワ一大事とばかりに振り込むのが日本なのだ。「日本はアメリカの財布」といわれる所以(ゆえん)もここにある。

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