2015-06-02

渡辺京二、関野通夫、本川達雄、佐藤勝彦、他


 1冊挫折、4冊読了。

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理』バートン・マルキール:井手正介訳(日本経済新聞出版社、2011年)/第10版。第9版は文庫化されている。インデックスファンドを勧めた古典。ランダム・ウォークとは株価予測は不可能であるとする理論だ。酔っ払いの千鳥足と同様で「次の一歩」がどちらに進むかわからない。が、しかしである。我々チャーチストに言わせれば「どちらに進もうが歩幅を超えることはない」。高っ調子が鼻について読了できず。

 57冊目『インフレーション宇宙論 ビッグバンの前に何が起こったのか』佐藤勝彦(ブルーバックス、2010年)/良書。教科書本。佐藤勝彦はインレーション宇宙論の提唱者である。さすがに説明能力が高く、しかもわかりやすい。「人間原理」という言葉を初めて知った。これはオススメ。

 58冊目『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』本川達雄(阪急コミュニケーションズ、2006年/文芸社文庫、2012年/1996年、NHKライブラリー『時間 生物の視点とヒトの生き方』改題)/これまた良書。「生物では、時間の早さはエネルギー消費量で変わってくる。エネルギーを使えばつかうほど、時間が早く進むのである」。現代の日本人はヒトとしての標準代謝率の40倍近いエネルギーを使っているそうだ。環境問題も突き詰めれば石油と電力の消費に辿り着く。個人的には労働時間を短くすべきだと考える。一切の乗り物を禁止する祝日があってもよい。

 59冊目『日本人を狂わせた洗脳工作 いまなお続く占領軍の心理作戦』関野通夫(自由社ブックレット、2015年)/資料的価値のある一冊。読み物としては今ひとつだ。江藤淳が『閉された言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』で明らかにした「ウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム」(WGIP)の具体的な証拠を示す。序文で加瀬英明が「ウオア・ギルト・インフォメーション・プログラム」と表記しているのが解せない。

 60冊目『逝きし世の面影』渡辺京二(平凡社ライブラリー、2005年/1998年、葦書房『逝きし世の面影 日本近代素描 I』改題)/ずっと気になっていた本だ。やっと読んだ。600ページあるが3日で読み終えた。平川祐弘の解説によれば渡辺は「在野の思想史家」であるという。野の広大さを思い知った。と同時に学位や肩書の不毛に思い至った。日本の近代史本を数十冊読んできて本書に巡り会えた僥倖は何ものにも代えがたい。江戸末期に来日した外国人の眼を通して「失われた日本の文明」に光を当てる。横山俊夫の英語著書を徹底的に批判しているが決して陰湿なものではない。太田雄三の『ラフカディオ・ハーン 虚像と実像』に対しても同様だ。渡辺は見事なまでに文献を引用し、列挙し、両論を併記しながら、まぶしいばかりの輝きを放っていた日本を鮮やかに切り取る。ページを繰るごとに喉の奥からせり上がってくる何かがある。私の内側に流れる日本人の血が熱くなる。だがその日本は文明開化と引き換えに滅び去った。文化は受け継がれたとしても文明は死ぬと渡辺は言い切る。江戸時代の日本人は決して「抑圧された民」ではなかった。自由に生き生きと生を謳歌していた。貧しくても食べることには困らなかった。欧米人は驚愕した。乞食が殆どいない上、子供という子供は丸々と肉付きがよかった。自然は美しく、人々は礼儀正しく、朗らかで親切だった。何をどう書いたところで尽きることはない。第十三章の『信仰と祭』はまったく新しい知見を与えてくれた。神道は民俗的祭政を「お祭り」にまで昇華したのだ。世俗化というよりは世俗そのものといってよい。これを肯定的な視点で捉えたところに渡辺のユニークさがある。ま、今年の暫定1位だ。

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