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2022-01-17

封建制は近代化へのステップ/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『自然観と科学思想』倉前盛通

 ・中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない
 ・封建制は近代化へのステップ

『ゲームチェンジの世界史』神野正史
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

世界史の教科書
宗教とは何か?
必読書リスト その四

 ――封建制度って、江戸時代までの日本や、中世ヨーロッパにもありましたよね。

 そこがややこしいところです。
 実は、日本とヨーロッパの封建制は、中国のそれとはまったく違います。これはかなり大事なことで、「周の封建制とヨーロッパ、日本の封建制との違いを述べなさい」といったかたちで、入試問題にも出題されます。
 いずれの封建制も、主君と臣下の関係である点は同じです。主君(親分)が臣下(子分)に土地を与え、臣下は親分に対して戦争のときに助けに行く、ということも共通です。周の場合には、臣下からの貢納があるのがちょっと違う点ですか(ママ)、これは決定的な違いではない。
 重要なのは、周の封建制においては、主君と臣下のもともとの関係が血縁を媒介にしている、とういこと。兄と弟、従兄弟(いとこ)同士、おじと甥(おい)、舅(しゅうと)と婿(むこ)といった関係ですね。
 対してヨーロッパと日本の封建制はどうか。たとえば織田信長の臣下が豊臣秀吉ですが、二人の関係は血縁関係ですか?

 ――秀吉って確か、農民出身だったはず……。

 そう、赤の他人ですね。赤の他人がどうして主君・臣下になるんでしょう? 秀吉が信長に憧(あこが)れてずっと追っかけていって、冬の朝に信長の草履(ぞうり)を懐で温めたりして、信長が秀吉を気に入って、という個人的な関係からです。

 ――契約のような?

 そう、いわば契約関係ですね、これは。
 これはヨーロッパの場合も同じです。まったく赤の他人が相手を信用して、「おまえに○○とか✕✕の城を与えるから、俺のために忠誠を尽くしてくれ」という契約を結ぶ。その契約がちゃんと履行される社会、これがヨーロッパと日本なんです。
 逆に言いますと、中国はそれがない。つまり、血縁がない赤の他人だと信用できない、他人は平気で裏切るという社会です。
 この違いは非常に重要です。というのは、近代の資本主義の世の中になってから、契約というのがますます重要になるからです。たとえば納期はいつまで、代金はいくら、という約束をしょっちゅう破るようでは、資本主義経済は成り立ちません。
 それがいままさに中国で起こっていることです。中国に進出した日本起業が散々苦労しているのは、しょっちゅう納期遅れとか、代金のごまかしとかが起きるからです。これは「他人は騙(だま)されても仕方がない」という文化があるからです。中国の資本主義のいちばんの弱点はここでしょうね。

 ――中国の封建制には契約観念がなかった、というのは重要なわけですね。

 封建制というと何か悪いこと、遅れた体制のように考える傾向がありますが、実は逆なんです。日本やヨーロッパのように、契約関係としての封建制がちゃんと機能した地域は、実は近代化に成功している。一方、血縁に頼った中国式の封建制は、近代化の障害になった。

【『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ヒカルランド、2014年)】

「世界で紋章を有する地域は西欧と日本のみである。これは正当な意味の封建社会の成立した地域であり、古代官僚制や古代帝王制が最近まで続いていた地域には紋章は発生しなかった」(『自然観と科学思想』倉前盛通)。西欧と日本はシーパワー国家である。一方、ランドパワーである大陸国は大規模な治水・灌漑工事が必要となるため中央集権的な官僚国家を形成する。海洋勢力と大陸勢力は地政学的に決まっており、これを変えるという考え方は存在しない。つまり、国家が有する位置エネルギーと捉えてよい。

世界史は陸と海とのたたかい/『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫

 もう一つ大切なことは、伊藤博文がキリスト教の神に替わるものとして天皇を国家の中心に据えたことである。

伊藤博文の慧眼~憲法と天皇/『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹

 このような近代化の急所を伊藤博文が抑えることができたのも封建制を経験していたためなのだろう。

 前近代的なものを「封建時代」と揶揄(やゆ)していたのは1990年代まで続いた。マルクス史観の汚染が国を覆い尽くしていたことがわかる。進歩史観においては古い歴史は常に黒歴史と認定される。

2022-01-16

中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『自然観と科学思想』倉前盛通

 ・中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない
 ・封建制は近代化へのステップ

『ゲームチェンジの世界史』神野正史
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

世界史の教科書
宗教とは何か?
必読書リスト その四

 歴史とは、「歴史的事実(証拠)」+「歴史観(解釈)」です。

 事実に基づかない歴史は、単なる妄想です。
「日本は戦争犯罪を繰り返した」という歴史観に忠実だった朝日の記者は、吉田証言の事実関係を検証することなく、妄想を記事にしてしまったのです。
 逆に、歴史観に欠けた歴史は、事実の羅列にすぎません。

【『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ヒカルランド、2014年)以下同】

 つまり、だ。朝日新聞の購読者は妄想あるいは小説が好きなのだろう。北海道新聞や東京新聞を始めとする地方紙も同様である。沖縄タイムス、琉球新報に至ってはSFの領域に突入しつつある。左翼と彼らのシンパは「反日」という物語であれば何にでも飛びつく。彼らにとっては天皇陛下を国家元首とするシステムは破壊の対象であり、それは自明の真理と化している。つまり自分の感情を疑うことをしない。教条は人を奴隷にする。赤い旗の下(もと)で斃(たお)れることが彼らの理想なのだ。

 原則として、一つの邑(ゆう≒都市国家)に住んでいるのは全員ファミリー、血縁者です。このような大家族を宗族(そうぞく)と言います。同じ祖先を祀(まつ)る、同じ苗字(みょうじ)、つまり同姓の男系血縁集団です。
 宗族は男系ですから、男の子に跡を継がせます。ここで、「同姓不婚」という決まりが生まれます。同じ姓の男女は結婚できないということです。つまり、結婚相手は別の宗族に求めないといけません。(中略)

 ――近親婚はダメ、ということですか?

 いや、もっと政治的な理由からです。
 基本的に隣の邑というのは敵です。常に争っています。だからお互いに嫁をとることによって平和条約を結ぶ。安全保障のための道具であり、お互いに贈り物をするうちの一つが女性だ、ということ。はっきり言うと、人質になるわけです。
 すると、もしも王さんと李さんが戦(いくさ)になれば、彼女は殺されるかもしれない。結婚は恋愛ではなく政治です。嫁に行くというのは命がけなわけですね。ですから、李さんの町の女性が王さんのところに嫁入りをしても、彼女は、王さんのファミリーには決して入れてもらえません。「おまえは李の娘」だ、と一生言われます。
 最近は夫婦別姓という話があって、「女性が夫の姓に変わるのは女性蔑視(べっし)だ」と言う人がいますが、中国の場合は女性が人質のように扱われた古代から夫婦別姓です。逆に言えば、夫のファミリーの一員として迎えられる日本の女性というのは非常に恵まれているとも言えるのです。

 ――なるほど。ところで子供が生まれたら、父親の宗族に加わるんですか。

 そうなります。だから子供から見ると、お父さんは自分と同じ宗族ですが、お母さんは違う宗族ということになる。この感覚は、日本人にはわからないと思います。
 中国史を見ていきますと、ものすごい悪女がしばしば出てきます。

 ――則天武后〈そくてんぶこう〉や西太后〈せいたいこう〉が有名ですね。

 漢の呂后〈りょこう〉も加えて「三大悪女」なんて言います。中国の悪女というのはすごくて、平然と夫を殺したり、息子を殺したりする。それは中国の女性が残忍だから、というよりは、「旦那やその一族は敵だ」、「自分の本当の味方は、お父さんやお兄さんだ」という文化があるからんですね。
 このように、血縁に重きを置く、血縁しか信用しないというカルチャーが中国にはある。そこから、封建制度という政治体制が生まれてきます。(中略)
 とはいえ、王様と血縁がない有力者を諸侯にしなければならない場合もある。敵国が降参して支配下に入り、諸侯に任じるような場合です。
 こういうときはどうするかというと、嫁の交換をします。先ほど李さんの町と王さんの町と同じです。こうやって、何がなんでも血縁関係を結んでいかないと、彼らは安心できない。そういう文化なのです。
 王様が諸侯に与える領地には、周りにちょっと盛り土をして目印を創りました。この盛り土のことを「封」(ほう)と言う。「封」を建てるから封建(ほうけん)制度というわけです。

 宗族(そうぞく)が男系血縁主義である事実は知っていたが、私は近親婚を避けるのが目的だと思い込んでいた。「中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない」――これは覚えておくべき事柄だ。

2021-12-13

ナポレオン率いるフランスは人口で勝った/『世界史で読み解く「天皇ブランド」』宇山卓栄


『三島由紀夫と「天皇」』小室直樹
『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり
『愛国左派宣言』森口朗
茂木誠:皇統の危機を打開する方法

 ・ナポレオン率いるフランスは人口で勝った

『〔復刻版〕初等科國史』文部省

世界史の教科書
必読書リスト その四

 一方、フランスでは、上流階級とブルジョワの妥協が成立しませんでした。ブルジョワは上流階級よりも、下層階級と協調する道を選んだのです。フランス王室が残らなかった最大の理由がここにあります。
 フランスでは、イギリスと異なり、下層階級の勢力が革命後も大きな役割を果たしました。フランス革命でルイ16世が処刑されると、周辺の王国は、革命が自国に波及することを恐れて、フランスに軍事介入しようとします。イギリスのような島国には、革命後、他国の介入がありませんでしたあ、大陸国のフランスは違います。
 フランスは、自国に介入しようとするプロイセン王やオーストリア帝国の軍を排斥するために強力な陸軍を必要としました。この陸軍兵士を構成していたのが下層階級の民衆でした。戦場で命を懸けて戦う彼らは強い政治的発言を持ち、誰も彼らを軽視できませんでした。クロムウェルは革命後、容赦なく、下層階級を弾圧しましたが、こんなことはフランスでは、絶対にできないことでした。
 他国の侵攻という危機に晒されていたフランスでは、下層階級の兵士たちこそが革命国家の第一の守護者であり、その権利や主張は絶対的なものでした。こうした兵士たちに担ぎ出され、のし上がったのが軍人のナポレオンなのです。ナポレオンは下層階級の代表者です。
 ブルジョワ勢力もナポレオンら下層階級の勢力を支援しました。フランスのブルジョワにとって、下層階級と手を組むことは必然であり、その意味において、王制が存続できる余地はありませんでした。
 ナポレオン時代の19世紀初頭において、陸軍の兵士の数が戦争の勝ち負けを左右しました。19世紀後半からは兵士の数よりも、装備や兵器の質が勝ち負けの主な要因になります。ナポレオンの強さの源泉は、ヨーロッパ随一を誇るフランスの人口でした。徴兵できる兵力数が他国を圧倒していたのです。そして、フランスの強大な軍事力を支えたのが下層階級の民衆だったのです。

【『世界史で読み解く「天皇ブランド」』宇山卓栄〈うやま・たくえい〉(悟空出版、2019年)】

 日本が今後、他国から攻められた場合を想定すると、「兵士の数よりも、装備や兵器の質」を格段に上げておく必要があろう。とはいうものの、人口減少時代に戦争となるリスクを思わざるを得ない。

 高度経済成長からバブル景気に至るまで、「今さえよければいい」との姿勢が政府と国民の間に蔓延していた。「今さえよければいい」から国防の備えを怠った。「今さえよければいい」から超高齢社会や少子化社会の手を打ってこなかった。そして今尚、現状維持・現状肯定の罠から抜け出すことができない。

 次の戦争で目を醒まさなければ日本の未来はない。

2021-10-31

親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 リクルート事件で首相を辞任した竹下が、キングメーカーとして擁立した海部俊樹首相に対し、小泉は宮澤派(宏池会)の加藤紘一、中曽根派の山崎拓〈やまさき・たく〉と組んで海部続投阻止を訴え、3人の頭文字からYKKと呼ばれました。
【YKKは親米派の小泉、親中派の加藤紘一、親北朝鮮派の山崎と政治信条はばらばらですが、72年初当選の同期で、経世会支配の中で干されてきたという被害者意識が共通】していました。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】


「自民党大阪府連は辻元氏を応援した山崎氏を問題視。除名処分を求める上申書を党本部に提出した」(10月29日:今西憲之 AERAdot.編集部)と報じられているが、自民党執行部はどのような判断をするのか。

 辻元清美といえば関西生コン事件で名前が上がった。

辻元清美議員に“ブーメラン”? 生コン業界の“ドン”逮捕で永田町に衝撃(1/2)〈週刊朝日〉 | AERA dot. (アエラドット)

 関生(正式名称は「連帯ユニオン関西地区生コン支部」)は沖縄の基地反対運動でも激しい活動を行っており、背後には北朝鮮の影がちらつく。関生とは保守系政治活動家の瀬戸弘幸が早い時期から戦ってきた。関生は組合の仮面をつけた北朝鮮系暴力集団と考えてよさそうだ(Vol.1 暴かれた虚像 - 近畿生コン業界情報サイト 結)。

 共産主義者は暴力革命の前提があるため血腥(なまぐさ)い行為には免疫が働く。かつては内ゲバで仲間同士を凄惨なリンチの末に殺害してきた歴史がある。

 山崎拓が狙っている北朝鮮利権は川砂、鉱物資源、労働力などであろう。実は宝の山なのだ。世界のレアアースの2/3が北朝鮮にあり、10兆ドルの価値があると試算されている。

 特に書きたいことはない。単なる時事ネタだ。今日は衆議院選の投票日。

GHQはハーグ陸戦条約に違反/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 GHQは、敗戦後の日本国民がいまだ昭和天皇に尊崇の念を抱き、秩序を保っていることに注目し、【天皇を元首とする大日本帝国の形を残したまま、間接統治をする】ことにしました。政府や国会の上に置かれたGHQから、超法規的な「GHQ指令」が発せられ、日本政府にこれを実行させたのです。【ナチス国家を完全に解体し、直接軍政を敷いたドイツとは対照的】です。
 GHQの統治下で内閣を組織したのは、皇族出身の東久邇宮稔彦王〈ひがしくにのみやなるひこおう〉、元外交官の幣原喜重郎〈しではら・きじゅうろう〉、同じく元外交官の吉田茂〈よしだ・しげる〉の順番です。
 幣原は、大正デモクラシー期に長く外相を務め、ワシントン海軍軍縮条約をまとめて軍と対立したことが、GHQに評価されました。この「英語ができる平和主義者」幣原のもとで、日本の交戦権を制限する新憲法を制定させることになりました。
 戦時国際法の基準とされるハーグ陸戦条約は、こう定めています。

「第43条 国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は、絶対的の支障なき限り、【占領地の現行法律を尊重】して、なるべく公共の秩序および生活を回復確保するため、施し得べき一切の手段を尽すべし」

 アメリカの日本占領は、1951年のサンフランシスコ平和条約発効まで続きました。この間、占領者アメリカには、ハーグ陸戦条約に基づいて【占領地日本の現行憲法を尊重する、】という国際法上の義務があったのです。
 したがって、GHQが日本の憲法を制定することはできません。そこで【マッカーサーは、幣原内閣に圧力をかけ、日本政府自らの意思で新憲法を起草したように見せかけた】のです。
 この「圧力」とは、つまり公職追放と検閲(プレスコード)です。
 公職追放は、戦時下の軍と政府の要人、思想家など「軍国主義者」に始まり、GHQを批判する者すべてを公職から解雇しました。空襲で産業が壊滅し、戦地からの帰還兵がどっと戻ってきたため、失業率が異常に高かった当時の日本で職を失うことは飢餓(きが)と直面することを意味します。幣原内閣は、組閣の直後に幣原首相、吉田外相ら3名を除く全閣僚を公職追放され、親英米派の幣原も「マックのやつ、理不尽だ」とうめきます。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

 こうした屈辱の歴史を教えない限り、自民党の変節も見えてこない。

日本国憲法の異常さ/『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖
憲法9条に埋葬された日本人の誇り/『國破れてマッカーサー』西鋭夫
GHQは日本の自衛戦争を容認/『いちばんよくわかる!憲法第9条』西修
憲法9条に対する吉田茂の変節/『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温
国民の国防意志が国家の安全を左右する/『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八

 ただし、日本は議会制民主主義を採用しているのだから、国民の意思が問われて然るべきだろう。「日本の近代史を知らなかった」という言いわけは通用しない。無知に甘んじてきた己を恥じるのが先だ。真珠湾攻撃から敗戦までは3年8ヶ月であったが、GHQの進駐は6年半にも及んだ。実は戦争そのものよりも占領期間の方が長いのだ。どう考えてもおかしい。この間、WGIPで日本国民を洗脳し、憲法を与え、アメリカ流の民主政を押しつけた。

 だがそれは既に遠い過去のことだ。現在にあっても安全保障についてはアメリカに依存しているが、国民が自立を望めば憲法改正はいつでも可能なはずだ。それをやろうともしないのは国民の意思が戦後レジームをよしとしている証拠である。

 近代化した日本は常にロシアの南下を警戒していた。韓国を併合したのも彼(か)の国がロシアの軍門に降(くだ)ることを防ぐためだった。日清戦争が起こった1894年(明治27年)の軍事費は国家予算の69.4%を占めた。日露戦争が勃発した1904年(明治37年)は81.9%にも及んだ(帝国書院 | 統計資料 歴史統計 軍事費(第1期~昭和20年))。国家存亡の危機意識がどれほど高かったかを示して余りある。

 1969年に国連の報告書で東シナ海に石油埋蔵の可能性があることが指摘されると、それまで何ら主張を行っていなかった中国は、日本の閣議決定から76年後の1971(昭和46)年になって、初めて尖閣諸島の「領有権」について独自の主張をするようになりました。

尖閣諸島|内閣官房 領土・主権対策企画調整室

 2010年には尖閣諸島中国漁船衝突事件が起こった。仙谷由人〈せんごく・よしと〉官房長官の独自判断で釈放されたと報じられた。sengoku38なる人物が衝突動画をYou Tubeにアップロードした。当時、海上保安官だった一色正春〈いっしき・まさはる〉の義憤に駆られた行動がなければ、日本国民の国防意識は今もまだ眠ったままとなっていたに違いない(尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件)。

尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶等の動向と我が国の対処|海上保安庁

 民主政が正しく機能するためには情報公開が前提となる。私が民主政を信用しないのは情報公開がなされていない現実と、たとえ公開されたとしても国民が正しく判断するとは到底思えないためだ(『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志)。

 国家は国民を欺(あざむ)き、歴史は嘘で覆われている。その最たるものが日本国憲法である。

2021-10-29

意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 この状況(※大東亜戦争敗戦)において、国家再生のためには新しいモデルが必要でした。
【日本人はそのモデルを、恐るべき敵であったアメリカに求めた】のです。
ストックホルム症候群」という精神医学の概念があります。1973年にスウェーデンで起こった銀行強盗で、銀行員数名が人質として監禁され、死の恐怖に怯(おび)えて数日間を過ごした事件がありました。事件は結局、警察が突入して犯人を逮捕しますが、この間、人質となっていた被害者が、犯人を擁護するような言動を繰り返したのです。この事例から、極度の恐怖を体験した人間は、加害者を自分と同一視することで恐怖を免れるという心理的メカニズムがあることが理論化されました。日常的に夫から虐待を受ける妻、親から虐待を受ける子どもがなかなか被害を訴えようとしないもの、同じメカニズムによるものです。
 連日連夜の空爆を受け、原爆を投下され、米軍に軍事占領された日本人の深層心理に、同じメカニズムが働いたと私は見ています。アメリカという悪魔にこれ以上蹂躙(じゅうりん)されないためには、アメリカを理想国家として賞賛し、アメリカと一体になるしかない……。
 これは日本人の集団的な無意識として働いたものですから、文献として残っているわけではありません。しかし【この無意識は、意識化されない限り、戦後日本人に世代を超えて強迫的に受け継がれていく】のです。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

「意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく」――衝撃的な一言である。これを読むだけでも本書には必読書の価値がある。意識化とは「見る」ことだ。ありのままに真っ直ぐ見つめれば答えは自ずから導き出される。

 黒船襲来を「強姦」と位置づけたのは司馬遼太郎であった(『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー)。ただ、歴史は振り返った時にしか見えてこない。当事者たちは川の流れの中で自分たちの位置すら理解できない。

 意識化されるのは一瞬である。「あ!」と気づけば違う世界が開ける。例えば私の場合、北海道で育ったこともあって長らく皇室制度を軽んじてきた。義務教育を苫小牧~帯広~札幌で受けてきたが、君が代を歌ったことは一度しかない。それも音楽の授業で習ったのだ。国旗に対する敬意を教わることもなかった。これが社会党王国の現状だった。もちろん道民が由緒正しい血筋と無縁であった背景にも由来しているのであろう。父方の祖父は戦争で樺太から引き揚げてきたと聞いている。北海道に家意識はない。「内の嫁」「内のしきたり」という言葉を聞いたことがない。このため全国で一番離婚が多い。家を背負っていないのだから当然だ。感覚はややアメリカに近いものがある。私は上京して「なんと因習が深いのだろう」と驚いた憶えがある。寺社仏閣も桁違いに多い。

 知人のライターが東日本大震災に対する天皇のメッセージをツイッターで紹介していた。彼は「陛下」と尊称をつけていた。それを見て、「へえー」と呟き、次の瞬間に「あ!」となった。胸の内に小野田寛郎〈おのだ・ひろお〉の生きざまがまざまざと蘇った。尊皇の精神が息を吹き、血の中に流れ通った瞬間であった。様々な知識が線となってつながった。大東亜戦争の歴史的な意味合いもストンと腑に落ちた。私は日本人となったのだ。

 これは決して大袈裟な話ではない。若い時分から本多勝一や鎌田慧〈かまた・さとし〉、黒田清〈くろだ・きよし〉、浅野健一などを読んで、完全に頭の中はリベラルに洗脳されていた。彼らの反日感情を見抜くことができなかった。左翼が主張するポリティカル・コレクトネスは破壊工作の手段に過ぎない。

 日本近代史に関する書籍を読み漁り、菅沼光弘を経て、竹山道雄に辿り着き、小室直樹倉前盛通で完璧に補強した。武田邦彦の影響も大きい。

 民族的な自覚は危機の中から芽生える。戦争や災害の中で国家の輪郭が際立ってくるのだ。

尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

【専制君主・天皇親政ではなく、第4章でも挙げた天皇が「治(し)らす」姿が1000年以上つづてきた日本の伝統的統治体制であり、「国柄」「国体」というべきもの】なのです。

 その一方で、【神話とも紐づけながらその世界観への復古を理想とし、天皇を崇拝して死も厭(いと)わないという激烈な尊皇思想が、中世のある段階から登場】します。これを中国の朱子学の影響だと見抜いたのが山本七平〈やまもと・しちへい〉でした(『現人神の創作者たち』〔上・下〕ちくま文庫)(第3部393ページ参照)。(中略)
 朱子学は、【主君と臣下の区別を重んじる「大義名分論」、中華(文明)と夷狄(いてき/蛮族)を厳しく峻別(しゅんべつ)する「華夷(かい)の別」】という二つのキーワードで要約できます。
 謀反人や夷狄による政権奪取は天が定めた「大義に反する」から絶対に認めない、たとえ武力で屈しても精神において屈することはない、という不屈の精神は、モンゴルの侵略を受け続けた中国人の心をとらえました。
 南宋からの亡命者は鎌倉時代の日本にも来ており、彼らが日本にこの朱子学を伝えたのです。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

「治(し)らす」については後日紹介する。

 メモ書きしておくと、朱子学を重んじた明朝が滅ぶ→満州族が建てた清朝が中国全土を支配→長崎に来航した明朝の亡命者の中に朱舜水〈シュ・シュンスイ〉がいた→噂を聞いた水戸光圀〈みと・みつくに〉が江戸に招く→水戸藩の事業として『大日本史』を開始→「万世一系の天皇が日本を統治した」という朱子学的大義名分論で貫いた大著(1906年/明治39年完成)→水戸学の編纂に携わったグループが水戸学→尊皇攘夷思想の誕生、という流れになる。いやはや勉強になった。

 これが三島由紀夫の陽明学にまでつながるとすれば、朱子学の影響を決して軽んじてはなるまい。


2021-10-24

1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
必読書リスト その四

 19世紀、産業革命が進む欧州ではすさまじい貧富の格差を生み出され、労働者階級の解放を掲げる社会主義運動が起こりました。フランス革命前のルソーの思想を淵源(えんげん)とし、マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』で暴力による労働者政権の樹立を訴えたのが1848年でした。暴力革命は1871年のパリ・コミューンまで断続的に起こります。
 この間、マグマのように沸騰する貧困層のエネルギーの安全弁となったのが、【アメリカへの大量移住】でした。アメリカが存在しなかったら、欧州全体がロシアのように社会主義化していたかもしれません。

 社会主義は貧困の撲滅、富の平等を目標に掲げます。自由競争が勝ち組・負け組を作るので競争そのものを禁止し、個人や私企業が土地や工場といった生産手段を持つことを規制します。土地や企業は国有化して国家がコントロールし、利益を平等に分配するのです。
 政府が経済をコントロールするわけですから、膨大な官僚機構(大きな政府)が必要となり、個人の自由は制限されます。その行き着く先は、ソ連・中国・北朝鮮で実現した共産党一党独裁体制です。
 これこそ、「自分の生活は自分で切り開く」「政府は邪魔するな」というアメリカ中西部、【レッド・ステイツの「草の根」のアメリカ人が最も嫌悪する国家体制】なのです。【アメリカ人の反共主義の源泉】はここにあります。
 一方、南北戦争に敗れた民主党は、もはや「南部の奴隷制を守る」という古い看板では選挙を戦えません。北部の資本家と組んだ共和党政権への対抗軸を示して政権を奪回するため、【「移民労働者を保護する」という新しい看板に掛け替えた】のです。まさに、生き残るためには何でもあり、というわけですが、この方針転換はアメリカの政治地図を塗り替えました。
 欧州からの大量移民は、ニューヨークの自由の女神を目指してやってくると、そのまま東海岸に住み着きます。対して、アヘン戦争に負けて衰退する中国や内旋が続くメキシコからの移民は、西海岸のカリフォルニアに定住します。
 アメリカ国籍は出生主義ですから、彼ら移民の2世は参政権を持ちます。この【移民系アメリカ人が民主党の新たな支持基盤】となったのです。これが、【ブルー・ステイツの誕生】です。
 逆に共和党は、「本来のアメリカ白人」の生活を守るため、移民の制限を主張するようになります。「アメリカ人が納めた税金で、移民にタダ飯を食わせるな」という主張です。
 こうして【民主党に幻滅したレッド・ステイツの人々は、共和党支持にくら替えした】のです。このとき生まれた政治地図が、今日まで続いているわけです。
 一方安い労働力で働く移民の流入は、産業界にとっては朗報でした。すると、【これまで共和党の基盤だったニューヨークなどの都市部の財界は「民主党政権でもよいのではないか」と考え初めます】。その結果、20世紀の初頭に財界と民主党とのある種の談合が成立し、1913年ウッドロウ・ウィルソン政権が発足しました。
 労働組合を支持基盤としつつ、財界からも政治資金を提供されるという二重人格的な政権で、ヒラリー・クリントンとそっくりです。JPモルガンを中心とするニューヨークの金融資本家グループに、米中央銀行(連邦準備制度理事会〔FRB〕)を組織させ、通貨ドルの発行権を与えたのがこのウィルソンです。このことも日本の教科書では教えていません。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

 読書中。『共産党宣言』が刊行された1948年は『一九八四年』が脱稿された年でもある(刊行は翌年)。ジョージ・オーウェルは下二桁の48年を引っくり返して84年とした。

 産業革命が貧富の差を拡大したとは知らなかった。まあ、でもラッダイト運動なんかを踏まえると、「やっぱりね」という感じもある。資本主義が加速する時、貧富の差は拡がるのだろう。そしてデジタルトランスフォーメーションが一気に進み、ビッグテックが国家をも凌駕しようとする今、二極化に拍車がかかるのは当然と言うべきか。

 問題はAIやロボットの台頭により人間の仕事が減ってゆくことだ。コンビニや工場を見ても、明らかに老人より外国人の方が目立つ。大衆は暴力に訴えるほどの気力も既に持ち合わせていない。静かに困窮しつつある生活が霧のようなストレスとなり、知らずしらずのうちに無気力な日々を送っている。

 国際基準に照らせば自民党の政策はセンターレフトと言われる。中道左派だ。かつての金融業における護送船団方式を思えばわかりやすいだろう。競争を排除するのだから完璧な社会主義政策である。小渕政権までは社会民主主義政策を推進してきたものと考えてよい。終身雇用も極めて社会主義的である。振り返れば江戸時代のメンタリティも社会主義っぽい。一君万民と公平・平等は響き合うものがある。革命なき社会主義が日本人のメンタリティか。

 自分よりも世間を重んじるのが日本の文化である。これを世間体とは申すなり。中国の天よりも日本の世間は卑近である。世間は近隣の眼差しの中にある。日本には虐殺の歴史も殆どない。せいぜい村八分が関の山だ(残り二分は火事と葬式)。

 ウェブ上におけるビッグテック支配を思えば、富の偏重は恐るべきスピードで進むことだろう。しかも雇用が縮小していく事実を踏まえれば、今後は大きな政府でやり過ごすのが手っ取り早い。

 財産権を犯すような税制には反対だが、使い切れない資産を有する富豪には何らかの税制措置が必要だろう。

 茂木本は本当に勉強になる。藤井厳喜〈ふじい・げんき〉よりもはるかにお奨めだ。

「アメリカ合衆国」は誤訳/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
必読書リスト その四

 このような【イギリス本国の「圧政」と戦うために、13ステイとが連合(ユナイト)して生まれたのが「the United States of America(アメリカ合衆国)」】でした。
 なお、「state」は「州」とも訳しますが、本来の意味は「国」ですから「the United States of America」は「アメリカ国家連合」が正しい訳語。「合衆国」は誤訳です。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

 かつて本多勝一〈ほんだ・かついち〉が「アメリカ合州国」を主張していた(『アメリカ合州国』朝日新聞出版、1984年)。尚、「合衆」には共和制の意味があり、民主政の古い訳語でもあるという(Wikipedia)。国家連合は連邦と同意か。

2021-08-30

ネオコンのルーツはトロツキスト/『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

 ・世界恐慌で西側諸国が左傾化
 ・ネオコンのルーツはトロツキスト

ジョン・バーチ協会の会長に就任したラリー・マクドナルド下院議員が、国家主権を解体し世界統一政府構想を進めるエリート集団を暴露
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 これまで見てきた保守やリベラルとは異質の、「ネオコン」と呼ばれる一派がアメリカにはいます。ネオコンとは「ネオ・コンサーバティズム」の略で、「新保守主義」と訳されます。(中略)
 さかのぼれば、ネオコンのルーツはロシア革命にあります。帝政ロシアはユダヤ人を迫害してきたので、ロシア革命には多くのユダヤ人が参加し、共産党の中にはユダヤ人が多数いました。そもそもマルクスがユダヤ人ですし、レーニンは母方の祖母がユダヤ人、トロツキーもユダヤ人です。
 ところが革命後、1924年にレーニンが死ぬと、共産党内でユダヤ人グループと反ユダヤ・グループが衝突します。ユダヤ人グループのリーダーがトロツキーで、赤軍の創始者として諸外国の干渉から革命政権を守った立役者でした。
 しかし反ユダヤ・グループを率いるスターリンの謀略(彼はジョージア人)によりトロツキーは失脚して国外追放され、共産党内部のユダヤ人たちは粛清されます。トロツキーは1940年、亡命先のメキシコで、スターリンの放った刺客に暗殺されました。
 アメリカにはロシア革命にシンパシーを持つユダヤ人がたくさんいたのですが、スターリンによってユダヤ人が粛清されたため、スターリンを敵視するようになります。その反動でトロツキーの思想を支持する「トロツキスト」を自称し、スターリンはロシア革命をねじ曲げた裏切り者であり、ソ連を打倒すべきだという考えを持つようになりました。彼らトロツキストこそが、ネオコンの始まりなのです。
 スターリンはヨーロッパで革命運動が次々に失敗するのを見て、「一国社会主義」に転換しますが、トロツキーは、赤軍による「世界革命論」を唱えていました。ですから、トロツキストであるネオコンは当然、「世界革命論」を支持するのです。
 この「世界革命論」は、世界に干渉して、アメリカ的価値を世界に浸透させるというウィルソンやF・ローズヴェルトの思想と共振します。実際、ネオコンはこの二人の大統領を高く評価しています。そしてローズヴェルトがアメリカでやったような、ニューディール的な社会政策を世界で実施していこうとします。こうして、民主党はネオコンの温床となりました。
 ネオコンはユダヤ人から始まっただけに、一貫して親イスラエルでした。1948年の建国以来、イスラエルは四次にわたる中東戦争をはじめ、アラブ諸国と紛争を繰り返しています。そのたびにネオコンは、イスラエル支持を表明しています。
 もともと共和党はイスラエルに冷淡でした。なぜなら、共和党のバックには石油産業がついているからです。ロックフェラー系のエクソンやモービルなど、石油産業はアラブ諸国に石油利権を持っているので、アラブに親米政権をつくることには熱心ですが、油田のないイスラエルには、関心がありません。そのことも、ネオコンが共和党ではなく民主党を支持した理由の一つでした(副島隆彦世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』講談社+α文庫)。

【『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠〈もぎ・まこと〉(WAC BUNKO、2021年/ワック、2020年『「米中激突」の地政学』改題新書化)以下同】

 フランス革命にもユダヤ人が参画していた(「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン)。国民国家には人種を乗り越える力があった。ロシアで虐げられたユダヤ人をパレスチナの地へ送り込んだのがロスチャイルド家であった(『パレスチナ 新版』広河隆一)。「ロシア革命の実態はユダヤ革命」という指摘もある(『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫)。

 ウッドロウ・ウィルソンとフランクリン・ルーズベルトは民主党選出の大統領である。両者ともに国際主義者で新生ソ連にエールを送った人物だ(馬渕前掲書)。ウィルソン大統領はパリ講和会議(1919年)で日本が提案した人種的差別撤廃提案を廃案に導いた。F・ルーズベルトはアメリカの本当の敵(ソ連)と味方(日本)を見誤った。どうやら国際主義者の眼は曇っているらしい。あるいは遠くを見すぎて足元を見失っているのだろう。

 ネオコンはレーガン政権からクリントン政権を挟んでブッシュ(子)政権まで共和党を支配しました。その間、盛んにアメリカが中東に出兵したのは、すべてネオコンの影響です。

 ネオコンは共和党のジョージ・W・ブッシュに巣食ったことで広く知られるようになった。「ネオコンは元来左翼でリベラルな人々が保守に転向したからネオなのだ」(元祖ネオコン思想家の一人であるノーマン・ポドレツ)とは言うものの、新保守主義との看板には明らかな偽りがある。まるで中島岳志が唱える「リベラル保守」みたいな代物だろう。左翼と嘘はセットである。平然と嘘をつきながら正義を語るのが左翼の本領なのだ。 9.11テロ以降のアメリカによる戦争を主導したのがネオコンであった。

 私は人類の社会性は国家が限界であると考えている。国家を超えてしまえば言語や文化の差異もなくなることだろう。それがいいことだとは思えないのだ。人格形成やアイデンティティを考えると、やはり気候や風土、食べ物や環境に即した個性がある方が望ましいだろう。もっと具体的に言えば、それぞれの民族や地域に特有な宗教の存在を認めるということである。

 国際主義者の恐るべき欺瞞は「ルールを決めるのは自分たちである」との思い込みだ。自由と民主政は確かに貴重な財産だとは思うが、他の国に強制するようなものではあるまい。個人的には日本のように官僚支配が強くなり過ぎた国は、いっぺん独裁制を認めていいように思う。それくらいのことをしないとこの国が変わることはない。

2021-08-24

世界恐慌で西側諸国が左傾化/『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

 ・世界恐慌で西側諸国が左傾化
 ・ネオコンのルーツはトロツキスト

『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 日本がアメリカに敗れて中国から引き揚げると、国民党と共産党の内戦(1946~49年)が始まりました。ところが不思議なのは、あれほど蒋介石を支援してきたアメリカが、急に国民党に冷たくなるのです。ほとんど援助もしません。
 ここにもアメリカの民主党政権内に巣くう新ソ派の明確な意思が働いていたのでしょう。彼らはソ連のスターリンと世界を分割し、中国を毛沢東に委ねることを決定したのです。
 西側諸国がここまで左傾化した最大の原因は、世界恐慌の影響だと私は思います。世界恐慌で資本主義の限界があらわになり、西側エリートの間に「資本主義は終わった」論が広がったのです。ソ連の計画経済をモデルにして国をつくり直さなければいけない。そう考えるエリートが世界中にいました。それが、アメリカのニューディーラーであり、日本の革新官僚だったのです。
 日本でも東京帝国大学の教授、高級官僚、政治家、陸軍士官学校出の青年将校……エリートであればあるほど、その思いは切実でした。
 第二次世界大戦でアメリカは、中国というマーケットを確保するために蒋介石を支援して日本を叩き出すことに成功しておきながら、その次はやすやすと毛沢東に中国を明け渡してしまったのです。

【『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠〈もぎ・まこと〉(WAC BUNKO、2021年/ワック、2020年『「米中激突」の地政学』改題新書化)】

 重要な指摘であると思う。個人的には二・二六事件の背景に世界恐慌があったことは知っていたが、国際的な容共につながっていたとは考えもしなかった。

 こうした事実を踏まえた上で、例えば以下の書籍あたりを再読する必要がある。

『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄
『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫

 社会主義の本質を見抜いていたのはウィンストン・チャーチルだけだったのかもしれない。だが、そのチャーチルも1955年(昭和30年)に首相の座から退く。

2021-07-17

大航海時代の主役はスペイン、ポルトガル、オランダ/『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年

 ・大航海時代の主役はスペイン、ポルトガル、オランダ

『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年
『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎 2018年
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎 2018年
・『日本人が知らない日本医療の真実』アキよしかわ
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

世界史の教科書
必読書リスト その二

 近現代の世界の権力を読み解くにあたって、最初に取り上げなくてはならないのは、やはりイギリスだろう。
 まず、「イギリスは、いち早く【産業革命】を成し遂げることによって世界の覇権を握った」――と思われがちだが、それは事実ではない。
 イギリスは産業革命以前にスペインの【無敵艦隊】を破り、スペインやポルトガルが世界中に持っていた植民地の大半を横取りした。そうして蓄積された資本によって、産業革命が成し遂げられたのである。
 では、イギリスはどうやってスペインをしのぐほどの強国になったのか?
 簡単に言えば、“国を挙げての海賊行為”である。
 イギリスは【大航海時代】に出遅れている。大航海時代の主役はスペイン、ポルトガル、オランダであり、イギリスは後進国だったのである。イギリスが海洋に乗り出したときには、すでにアフリカ大陸、アメリカ大陸の重要な地域は、スペイン、ポルトガルに占領されていた。
 そんな中、気を吐いていたのがイギリスの海賊たちだった。イギリスの海賊は統率の取れた船団、巧みな航海術によって、スペインやポルトガルの輸送船を襲い、財宝や貴重な産品を次々と強奪していたのだ。
 イギリス王室は、この海賊船団に目をつけ、王室が建造した船を与えて、国家事業としての海賊行為を始めた。その最たるものが、【海賊ドレイク】の航海である。  海賊ドレイクはマゼランに次いで世界一周を行い、スペインの無敵艦隊を破ったことで知られるイギリスの海軍提督である。もともとは普通の海賊だったが、【エリザベス女王】に見込まれて、国家プロジェクト的に海賊行為を行ったのである。その功績が認められてのちにイギリス海軍を任され、海軍提督にまでなったのだ。

【『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(KADOKAWA、2016年)】

 厳密に言えばオランダは後発組で、八十年戦争を経てスパインからの独立を果たした。トルデシリャス条約はスペインとポルトガルで世界を二分することをローマ教皇が認めたものだ。後(おく)れを取ったイギリスとフランスが帝国主義を席巻するのだから歴史の有為転変を思わずにはいられない。

 国家が行う犯罪は正当化される。なぜなら国家を裁く機関がないゆえに。イギリス王室はともすると日本の皇室に続く伝統と見なされがちだが、海賊と手を組むようではお里が知れる。たぶん真のエンペラーは日本にしか存在しないのだろう。天皇陛下はつくづく不思議な存在であらせられる。

 第二次世界大戦以降、米ソが世界を牛耳り、46年後にソビエトが崩壊する。パックス・アメリカーナも100年は続くまい。アメリカの威光が翳りを帯び、中国が台頭してきた。世界は今静かに揺れている。チベットやウイグルに対する中国の暴虐に対して、主要国は断乎たる態度を取ることができなかった。最近になってようやくアメリカが重い腰を上げたところである。

 日本にとっては千載一遇の好機である。速やかに憲法を改正し、間もなく訪れるであろう中国戦に備えるべきだ。我が国としては一億玉砕をも辞さずの覚悟をもって戦争に臨み、日清戦争における臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を晴らす秋(とき)である。この際、遼東半島と言わずに満州・チベット・ウイグルの独立にも手を貸すべきである。すなわち防衛や局地戦といった消極的な姿勢ではなく、一朝事ある時は万難を排して中国領土を奪取しなくてはならない。

 歴史を動かすのは強い意志である。専守防衛などという自国独善主義では世界を牽引することが不可能だ。欧米が没しつつある現在、日出る国が世界を照らすのは当然と考えるがどうか。

2021-03-30

人間のもっとも原初的な社会は母子社会/『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編


『砂糖の世界史』川北稔

 ・結社〜協会・講・組合・サロン・党・サークル・団・アソシエーション・会・ソサエティ
 ・人間のもっとも原初的な社会は母子社会

『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔

 人間は、孤独では生きていけない動物だといわれる。人間は集団のなかで生まれ、集団のなかで死んでいくのである。人間のもっとも原初的な社会は、母とその子どもからなる母子社会であり、母子関係を中心として家族・親族・氏族のような血縁関係がつくられた。数百万年は続いたと思われる人類の狩猟・採集時代は、血縁の原理がもっとも優越していた時代であったろう。(中略)
 血縁と地縁は、人間を結びつけるもっとも古い二代紐帯原理であるが、これら血縁・地縁に劣らず古くから存在する紐帯原理は、共通の利害や感心に基づく「約束」の原理であった。このような一定の「約束」のもとにつくられる集団は、利益集団ないしは結社(association)と呼ばれた。結社は人類史上新石器時代、あるいは原始農耕の出現と相前後してあらわれたものといわれており、一般の予想よりかなり古い歴史をもっている。(「刊行にあたって」綾部恒雄)

【『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄〈あやべ・つねお〉監修、川北稔〈かわきた・みのる〉編(山川出版社、2005年)】

 現代では「孤独」を心理的に捉える傾向が強いが、むしろ社会行動的に考えるべきだ。要は群れとしての有機的な結合を欠くところに孤独が立ち現れてくるのである。我々のDNAには「誰かのために役立つこと」を幸福と感じるメカニズムが埋め込まれている。利他の精神ではない。ただそういう生命の仕組みなのだ。誰からも必要とされなくなれば生きてゆくことは難しい。なぜなら「生きる理由」がないためだ。

 ヒンドゥー社会にはアーシュラマ(住期)という概念があり、人生の節目を四段階に分ける。学生期・家住期・林住期・遊行期とあるが、林住期の後に遊行期と来るところがミソである。山林で瞑想を深めた後に再び市中を遊行(ゆぎょう)するのである。悟りを社会に展開する営みが群れと決して断絶していない。仏教もまた同様で必ず都市部周辺にサンガは形成される。なぜなら人里離れた山奥で修行すれば托鉢(たくはつ)が不可能となるからだ。仏教が都市宗教と呼ばれる所以(ゆえん)である。

 台湾原住民では族の下の部落を「社」と呼んだ(alangの訳か)。例えば霧社事件に合流したのはマヘボ社、ボアルン社、. ホーゴー社、ロードフ社、タロワン社、スーク社などである。「中国で,ある神格的シンボルを中核として団結した集合体をさす。「社」という語は,大地の生産力を神格化したものを意味しているが,実際には,その土地に生えている大木や石をシンボルとして設定した」(コトバンク)。社稷の社を思え(Weblio辞書)。「やしろ」(神を祀ってある建物)と訓読みすれば腑に落ちる。

「かつてsocietyということばは、たいへん翻訳の難しいことばであった。それは、第一に、societyに相当することばが日本語になかったからなのである。相当することばがなかったということは、その背景に、societyに対応するような現実が日本になかった、ということである」(『翻訳語成立事情』柳父章)。移動の自由がなければ社会は創出されない。村=世間の時代が長く続いたということなのだろう。それを打ち破ったのもまた明治維新であった。

 ありあまる自由を享受する我々が次々と結社を行わないのはなぜか? 利益がマネーに限定しているためか。NPO的な視点や価値観が必要な気がする。

2021-02-04

ヘゲモニー(覇権)国家/『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔


『砂糖の世界史』川北稔
『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編
『歴史とは何か』E・H・カー
『歴史とはなにか』岡田英弘
『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘
『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
『世界史とヨーロッパ』岡崎勝世

 ・ヘゲモニー(覇権)国家

『時計の社会史』角山榮

世界史の教科書
必読書リスト その四

 ところで、世界システムの歴史では、ときに、超大国が現れ、中核地域においてさえ、他の諸国を圧倒する場面が生じる。このような国を「ヘゲモニー(覇権)国家」という。もっとも歴史上、このような国は、17世紀中ごろのオランダ、19世紀中ごろのイギリス、第二次世界大戦後、ヴェトナム戦争前のアメリカの3国しかない。
 世界の現状は、ヴェトナム戦争以後、アメリカがヘゲモニー(覇権)を喪失した状況にあることは、ほとんどの研究者が承認している。

【『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔〈かわきた・みのる〉(ちくま学芸文庫、2016年/放送大学教育振興会、2001年『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂)以下同】

世界システム論」はイマニュエル・ウォーラステインが提唱した概念で、国家ではなく交易・経済を有機的なシステムとして捉える。国家を超えるという意味での「世界」であり、全世界を意味するわけではない。

 驚いたことが二つある。まず、トルデシリャス条約(1494年)で世界を二分したポルトガルとスペインが覇権国家に入ってないこと。次にアメリカの覇権がベトナム戦争で終わったという見方である。とするとソ連は自壊したことになるのか。

 日本人なら世界システム論をすんなり受け入れることができると思われる。東アジアにはモンゴル帝国やシナの朝貢などの歴史があるからだ。「近代世界システム」の定義はヨーロッパを中心とする価値観で別段分ける必要もなかろう。

 戦後の日本の歴史学においては、オランダの歴史は、イギリスのそれとの対比で「近代化の失敗例」とみなされ、その失敗の原因を求める研究が中心であった。中継貿易を中心にした経済の仕組みがその弱点であった、といわれたものである。しかし、現実のオランダは、世界で最初のヘゲモニー国家として、イギリスにも、フランスにも、スペインにも、とうてい対比しようのないほどの経済力を誇ったのである。(中略)
 生産面での他国に対する優越は、世界商業の支配権につながった。ポルトガル領のブラジルでも東アジアでも、オランダ人の姿がみられるようになった。政治的な支配がどのようになっていようと、オランダ人は世界中いたるところにその存在を示すことになったのである。こうした世界商業の覇権は、たちまち、世界の金融業における圧倒的優位をオランダにもたらし、アムステルダムは世界の金融市場となった。オランダの通貨が世界通貨となったのである。のちのイギリスやアメリカの例でもわかるように、世界システムのヘゲモニーは、順次、生産から商業、さらに金融の側面に及び、それが崩壊するときも、この順に崩壊する。

 最後の一行が胸に刺さった。アメリカファーストを唱え、製造業を国内に回帰させようとしたトランプ大統領を米国民は拒否した。つまり生産が再び活気を取り戻すことはないと考えられる。商業は折からのコロナ不況で、今活況を呈しているのは食品くらいだろう。

「資本主義は終わる」という類いのリベラル本が数多く出版されているが、いずれも「リーマンショックでアメリカは終わった」との主張が多い。現在、ダウ工業株平均は史上最高値を更新しているが、これは行き場を失った緩和マネーが流入しているもので、国民生活や景気を反映しているわけではないことに留意する必要がある。

 もともと「ヘゲモニー」は、イタリア出身のマルクス主義者である革命家「アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)」が提唱した言葉です

「ヘゲモニー」の意味とは?イニシアチブとの違いや使い方の例文も | TRANS.Biz

 本書には「ただ、世界の重心が部分的に中国に移動しつつあるようにみえることからすれば」との記述もあり、やや今後の中国覇権に傾いている嫌いはある。アメリカが一歩引けば中国が一歩前に出てくる。ロシアも黙って指をくわえていることはあるまい。

 世にも不思議なコロナバブルが終わるタイミングが覇権の動く時であろう。中国共産党はデジタル人民元を着々と推し進めている。日本人はといえば外出を自粛し、不安を煽るテレビを黙って見つめているだけだ。

 そろそろ伝統の上に胡座(あぐら)をかく真似はやめるべきだろう。たった一度の戦争に敗れただけで、この国は戦うことをあきらめてしまった。今に至っては何の備えもない。日米安保にすがって生きてゆく国家に未来はないだろう。

2021-01-28

世界最初の紙幣は北宋の「交子」/『経済は世界史から学べ!』茂木誠


 ・世界最初の紙幣は北宋の「交子」

『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

【世界最初の紙幣は北宋の「交子」(こうし)】です。内陸の四川(しせん)で発行されました。
 当時、中国で広く流通していたのは銅銭ですが、銅の産出が少ない四川では鉄銭を使用していました。しかし鉄銭は重く、高額の取引には向きません。
 そこで金融業者は商人から鉄銭を預かり、引換券として紙幣を発行したのです。北宋政府は商人からこの権利をとり上げ、交子を発行します。政府が保有する銅銭を準備金(担保)として、発行額には上限が定められました。
 ところが、政府というのは無駄遣いに走りがちです。戦争や公共事業、宮廷の浪費を賄うため、上限を超えて紙幣を乱発し、信用が一気に失われます。【紙幣乱発による通貨価値の下落――すなわちインフレが起こる】わけです。
 北宋の交子、南宋会子(かいし)、交鈔(こうしょう)、すべて同じ経緯で紙くずになり、「インフレ→農民暴動→王朝崩壊」という経過をたどりました。」

【『経済は世界史から学べ!』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ダイヤモンド社、2013年)】

 紙幣を発明したのはユダヤ人の金貸しだと思い込んでいる人が多い。私もその一人だった。羅針盤・火薬・紙・印刷は中国の四大発明とされるが、紙幣も加えて五大発明にすべきだろう。

 このテキストを読んで直ちに思ったことは「なぜドル基軸通貨体制が維持されているのか?」である。ま、有り体に言ってしまえば石油や武器をドル決済させることでアメリカ本国へドルが還流することを防いでいるためだろう。

 ニクソンショックから既に半世紀以上を経ている。ドルは360円から104.292円(現在値)まで価値を下げている。最終的には50円くらいまで下げると私は睨んでいるが、50円だと紙屑とは言わない。それほど遠い未来ではなく数年以内にドルは沈むことだろう。米国債を大量保有している中国と日本はどうするのだろうか?



マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎

2021-01-06

奴隷制とリンカーン大統領/『奴隷船の世界史』布留川正博


 ・イギリスにおけるカトリック差別
 ・奴隷制とリンカーン大統領

『奴隷とは』ジュリアス・レスター
『砂糖の世界史』川北稔
『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン

 ただし、奴隷解放は当初南北戦争の争点では必ずしもなかった。重要だったのは合衆国の連邦体制を維持することである。リンカン大統領は戦争中の1862年8月、「私の最大の目的は、連邦を救うことである。奴隷制を保持するか廃止するかは喫緊の課題ではない」と述べている。ただし彼は、奴隷制は道徳的に誤りであるという信念は大統領就任以前から抱いていた。
 1863年、リンカンが奴隷解放を宣言したのは、南部連合を孤立させるための戦略の一環であった。北軍の連邦諸州の目的に、連邦の維持だけでなく、奴隷解放も付け加わったのである。これによって南部連合は動揺し、国際的にも孤立してゆく。戦争は南北あわせて60万人以上の戦死者をだす未曽有の事態となったが、ゲティスバーグの戦い(1863年7月)での北軍勝利が転回点となり、経済力にまさる北部連邦諸州が勝利した。北軍には解放奴隷を含む多数の黒人兵も従軍した。戦争終結後の1865年4月15日、リンカンは暗殺されるが、同年12月、憲法修正第13条によって合衆国における奴隷制度廃止が実現されたのである。

【『奴隷船の世界史』布留川正博〈ふるかわ・まさひろ〉(岩波新書、2019年)】

「リンカーン大統領が奴隷解放を唱えたのは黒人を兵士に起用するための方便だった」と物の本で読んだ覚えがある。布留川正博の視点は中庸に貫かれていて妙な偏りがない。学問とはかくあるべきだろう。

 3分の1ほど読んで「奴隷ではなく奴隷船の歴史」であることに気づいた。本を閉じそうになったが最後まで読ませられたのは著者の筆力が優れている証拠だろう。

 ジム・クロウ法(1876~1964年)という人種差別法があったことを踏まえると、リンカーンが掲げたのは単なる理想だったのだろう。つまり餅の画(え)を描(か)いてみせたのだ。

 リンカーンが奴隷制反対を聴衆の前で公言したのは1854年だが、

 1858年には、「これまで私は黒人が投票権をもったり、陪審員になったりすることに賛成したことは一度もない。彼らが代議士になったり白人と結婚できるようにすることも反対だ。皆さんと同じように白人の優位性を疑ったことはない」と語っている。

Wikipedia

 公民権運動のきっかけとなったモンゴメリー・バス・ボイコット事件が起こったのが1955年だ。黒人専用座席に坐っていたローザ・パークスが運転手から立つよう促された。パークス女史は静かに「ノー」と言った。そして彼女は逮捕された。ここからマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが立ち上がるのである。

公民権運動の母ローザ・パークスが乗ったバス

 アメリカ建国の200年は人種差別の時代と言ってよい。根深い差別感情は現在もまだ途絶えることなく連綿と続く。しかしながら間もなくアメリカは有色人種の国となる。白人人口が減少した時、現在の大統領選挙以上の混乱が待ち受けているような気がしてならない。

2020-12-17

イギリスにおけるカトリック差別/『奴隷船の世界史』布留川正博


 ・イギリスにおけるカトリック差別
 ・奴隷制とリンカーン大統領

『奴隷とは』ジュリアス・レスター
『砂糖の世界史』川北稔
『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン

 イギリスの政治的状況は、ちょうどこの時期に劇的に変化した。イギリスの「アンシャン・レジーム」ともいうべき制度であった審査法(1673年制定)が1828年に廃止され、翌年にはカトリック解放法が制定された。これによって国教徒以外でも公職に就くことや議員になることが可能になり、また、アイルランドのカトリック教徒にプロテスタントと同等の市民権が与えられることになった。

【『奴隷船の世界史』布留川正博〈ふるかわ・まさひろ〉(岩波新書、2019年)】

「この時期」とはジャマイカにおける奴隷叛乱が起こった時期を指す。Wikipediaには「バプテスト戦争」との表記あり。サム・シャープ(ジャマイカ国家的英雄サム・シャープ | African Symbol Jamaica アフリカンシンボルのジャマイカブログ)は平和的なストライキを行うつもりであったが、一部の奴隷が暴れ始めて遂には大暴動へと発展した。

 この手の文章は正確かつ丹念に読む必要がある。「公職」と「市民権」とある。参政権については、「その当時選挙の参政権は財産によって決定づけられたので、この救済は、年間2ポンドの賃貸価値のある土地を所有するカトリック教徒に票を与えることとなった」(Wikipedia)。

 宗教コミュニティは「禁忌(タブー)を共有する人々」である。市民革命は階級間の差別を解消すべく人権という概念を生み、やがては宗派間の差異をも超越するに至った。日本に人権概念が生まれなかったのは惻隠の情があったのもさることながら、ヨーロッパほどの過酷な差別がなかったためとも考えられよう。

 一神教の絶対性は壮絶な争いを志向する。宗教的正義はドグマに基づいて敵を殺戮する。我々は八百万(やおよろず)の神でよい。争うことなく、クリスマスもハロウィンも祝い、正月は神社を参拝し、節分には豆を撒(ま)き、お彼岸には墓参りをするのが正しい。

2020-11-27

問いの深さ/『近代の呪い』渡辺京二


『逝きし世の面影』渡辺京二
『陸軍80年 明治建軍から解体まで(皇軍の崩壊 改題)』大谷敬二郎
『日本人と戦争 歴史としての戦争体験』大濱徹也

 ・問いの深さ

世界史の教科書
必読書リスト その四

 では、近代とは何でありましょうか。このような民衆世界の国家と関わりない自立性を撃滅したのが近代だったのであります。ただし近代といっても、アーリイ・モダン段階まではヨーロッパにおいても、このような自立した民衆世界は存在していたのでありますから、18世紀末以降のモダン・プロパーのことになります。モダン・プロパーの成立は実体的にいえば国民国家の創出であります。ヨーロッパにおいては、これがフランス革命でありまして、その意義はブルジョワ支配の確立なんてところにあるのではなくて、国民国家の創出にこそその第一の意義が認められねばならない。フランス革命が創造したのはナショナル・ガード、つまり国民兵であります。お国のことなんて知らねえよと言っていた民衆が、よろこんでお国のために死ぬことになった。これは画期的なことでありまして、フランス革命のキー・ポイントは民衆世界の自立性を解体するところにあったのです。  国民国家の創成には、絶対主義国家という前史があります。しかし、この絶対主義国家というものはもちろん国家の統合・中央集権を強化しましたけれども、国民を直接把握したわけではないのです。国民と王権の間には様々の中間団体がありまして、絶対主義王権はそれを解体することはしなかった。この中間団体を解体したのがフランス革命であります。中間団体が解体されるということは、民衆の自立性が浸食されてゆくということです。  戦争という点をみても、この時代の戦争は国民全体を巻きこむものではなかった。だから、イギリスとフランスが戦争をしているのに、イギリス人が自由にフランス国内を旅行するということが可能だったのです。国民と国民が全体的に戦争によって対立するというのはナポレオン戦争が生みだした新事態であって、それがすなわち国民国家の創出ということであったのです。  国民国家の創成については、世界経済の成立という点も併せて考えてみる必要がありましょう。先に述べましたように、世界経済は環大西洋経済として出発したのでありますが、この環大西洋経済圏のヘゲモニーを握るためには、民衆を国民として統合する強力な国家が必要でありました。もちろん、インドから日本に至るアジア経済、具体的にいえばインド洋貿易圏と南シナ海貿易圏のヘゲモニーを握る争いも重要でありました。そういった世界経済におけるヘゲモニーは、スペイン、オランダ、英国という順に推移してゆくわけでありますが、結局は強力な国民国家を創出できた者がヘゲモニーの保持者となります。  幕末において、日本の先覚者といわれる連中が直面したのは、こういったインターステイトシステム、つまり世界経済の中で占める地位を国民国家単位で争うシステムであります。それを彼らは万国対峙の状況と呼んだのである。このシステムは、ぼやぼやしている連中は舞台の隅に蹴りやって冷飯を喰わせるシステムでありますから、幕末の先覚者たちが、天下国家のことには我関せず焉(えん)という民衆の状態にやきもきしたのは当然です。ぼやぼやしていたら、冷飯どころか植民地にされてしまうかもしれないのです。

【『近代の呪い』渡辺京二〈わたなべ・きょうじ〉(平凡社新書、2013年)】

 ポストモダン用語に苛々(いらいら)させられるがアーリーモダンは「初期近代」(その前にプレモダンがある)、モダンプロパーは初耳だが「本格的な近代」といったところか。

『逝きし世の面影』で外国人の手記を通して幕末から明治の日本を鮮やかに抽出した渡辺だが、私は信用ならぬ感触を懐(いだ)いていた。その後、石牟礼道子に心酔した渡辺が身の回りの世話までするようになった事実を知った。対談にも目を通した。『苦海浄土 わが水俣病』(講談社、1969年)は紛(まが)うことなき傑作だが、実はノンフィクションを装った文学作品である。第1回大宅壮一ノンフィクション賞を辞退したのは石牟礼の良心が疼(うず)いたためか。水俣の運動はやがて市民色を強めていった。彼女は『週刊金曜日』の創刊時にも参画している。

「どうせ、リベラルの仮面をつけた隠れ左翼だろうよ」という私の疑問は本書で完全に氷解した。渡辺京二は臆することなく左翼であることを白状しているのだ。嘘がないことはそれだけでも人として称賛できる。しかも現代を照射するための近代への問い掛けの深さが生半可ではない。渡辺は時代と世相を問いながら、更に自分自身をも問う。もはや評論の域を超えて哲学にまで迫っている。

「中間団体」なる言葉を私は佐藤優の著書で知った(『人間の叡智』)。佐藤は精力的に中間団体へアプローチし、現在も例えば創価学会などに秋波を送り続けている(『AERA』)。

 宗教と個人主義の関係について重要な指摘がなされているのは、ウェーパーの『プロテスタンテイズムの倫理と資本主義の精神』([1904-5] 1920)においてである。「個人」意識が発生する契機になったのは中世的構造原理の解体であったが、なかでも宗教改革によって促進された教会の衰退が大きく作用している。教会という中間集団が弱体化し、神と信者を媒介していた教会や司祭は、この時に取り除かれることになったのである。

アメリカにおける個人主義とニューエイジ運動 現代宗教の問題と課題:藤本龍児

 カルビニズムの到来が象徴する思想史の転換とほぼ時代的に重なって,社会史の転換が起こった。それは中世社会で強力であった中間集団,すなわち国家と個人の中間にある大家族,自治都市,ギルド,封建領主領,地区の教会などの集団が,しだいに自立性を失って,これらの集団に属していた個人がこれらの支配から解放されてきた,という転換である。中間集団からの個人の独立という転換と,思想史の上でのあの世的個人主義の世俗的世界への拡散という転換とが重なって,西欧の近代に個人主義が確立した。

世界大百科事典内の中間集団の言及

 ひょっとしたら共産主義革命のセオリーなのかと思いきやそうではなかった。エミール・デュルケムも『自殺論』などで中間集団論を述べているようだ(中間集団論 社会的なるものの起点から回帰へ:真島一郎)。

「インターステイトシステム」はイマニュエル・ウォーラステイン世界システム論で説かれた概念である。

 佐藤優がいう中間団体は党や組合を思わせるが、渡辺京二が説く中間団体は政治被害を防ぐ目的があるように感ずる。渡辺が抱く民衆世界への郷愁には共感できないが、その気持ちは理解できる。

2020-10-23

国家は税と共にある/『脱税の世界史』大村大次郎


『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎

 ・国家は税と共にある

・『対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』加藤寛、渡部昇一
・『近代の呪い』渡辺京二

大村大次郎

 歴史上、「税金のない国」というのは、存在したためしがありません。(中略)
 初期の古代ローマはローマ市民から「直接の税金」はほとんど取っていませんでした。しかし関税を徴収したり、占領地から税を徴収していました。
 歴史上、国家の体(てい)をなす存在において、税金が課されなかったことは一度もないといえるのです。
 一国の政府(政権)の存在というのは、煎じ詰めれば、「いかに税金を徴収し、いかに使うか」ということになると思われます。
 役人を使って国家システムを整えるにも、インフラ整備をするにも、他国からの侵略を防ぐにも、税金が必要になります。だから、税金がないと国家というものは成り立ちません。
 王権国家であろうと、民主政国家であろうと、共産主義国家であろうと、宗教国家であろうと、それは同じです。

【『脱税の世界史』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(宝島社、2019年)】

 後半の失速が惜しまれる。好著を切り捨てることで「必読書リスト」の厳選が担保されるというジレンマに苦しむ。ジェームズ・C・スコットの後で読んだだけにインパクトは大きかった。大村の著作は宗教に関する物以外は全部お勧めできる。

 哺乳類の群れは暴力と分配を軸に形成される。高度な知能はやがて技術や協力に至るが暴力と分配という軸は動かない。ともすると知能は「人間らしさ」とのフィルターを通して美しい素養を考えがちだが実は違うのではないか。チンパンジーの特筆すべき行動は「相手を騙(だま)す」ことにある。騙すためには相手が何を考えているかを知る必要がある。つまり共感~想像といった思考の飛翔が伴う。この高度な知能が犯す醜い行動が長年にわたって私の心から離れることはなかった。

 感情を排してただありのままの事実を見てみよう。現代社会の成功者とは「嘘をつくのが巧みな人物」であると言ってよい。この場合の嘘とは「自分の意のままに人々を動かす言動や振る舞い」を意味する。政治家・経営者・教師・宗教家・親・先輩は必ず何らかの信念に基づいた操作・誘導を行う。一番わかりやすいのは俳優・芸能人である。彼らは「嘘をつくのが仕事」だ。ミュージシャンも同様である。フィクション(虚構)を通して大衆に夢を見させる役割を果たしている。

 あるいは巨大宗教組織を見れば、そこには国家の萌芽ともいえるシステムが構築されている。ローマ・カトリック教会は十分の一税を徴収していた。喜捨を募らない教団は存在しない。創価学会では100万円の寄付をする信者がざらにいるし、出版を通したビジネスモデルを編み出したのはGLAの高橋信次で、現在は創価学会や幸福の科学に受け継がれている。巨大教団は宗教企業と化した。国家と異なる点は分配なき集金であることに尽きる。

「民が疲弊しないように効率的に税を徴収し、それをまた効率的に国家建設に生かす」
 というのは、国が隆盛するための絶対条件だといえます。
 そして、国が衰退するときというのは、その条件をクリアできなくなったといきだといえます。

 国家は徴税し、税負担は大きくなり、国家は国民を喰い物にした挙げ句、衰退してゆく。富の蓄積(関岡正弘)が大きく偏り歯止めが効かなくなるのだろう。情報産業を支配するGAFAなども国家弱体化の象徴であり、既に多国籍企業は国家をも超越し(『ザ・コーポレーション』)、タックスヘイブンを通して租税を回避している(『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン、『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻)。

 いずれにしろ、脱税がはびこるときには、社会は大きな変動が起きます。
 武装蜂起、革命、国家分裂、国家崩壊などには、必ずといっていいほど、「脱税」と「税システムの機能不全」が絡んでいるのです。

 アメリカ大統領選挙を前にしたBLM運動、中国共産党による香港弾圧・ウイグル人虐殺など「大きな変動」は日々報じられている。日本で格差が広がったのは消費税導入(1989年)以降のことである。

 多国籍企業に対する国家の巻き返しと、民族主義・帝国主義が渦巻く時代に入った。日本国民にはかつての米騒動を起こすほどの気概はない。中国と戦うか妥協するかで国の運命が分かれる。

2020-06-30

無責任な戦争アレルギー/『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
『ゲームチェンジの世界史』神野正史

 ・国際法成立の歴史
 ・無責任な戦争アレルギー

『「米中激突」の地政学』茂木誠
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 第二次世界大戦後の歴史教育は、戦争を悲惨なもの、あってはならないものとしてタブー視し、戦争について語ることさえはばかられるという風潮を作ってきました。サッカーの公式試合にぼろ負けしたチームが、敗因の分析をまったく行わず、「二度とサッカーはしない。ボールは持たない」と誓いを立てたのです。
 あの軍民合わせて300万人もの日本人を死に至らしめた満州事変から第二次世界大戦に至る戦争についても「そもそも間違っていた」と断罪するだけで、「なぜ負けたのか? 今後二度と負けないためにはどうすればよいのか?」という議論は封殺されてきたのです。
 しかし現実の世界では苛烈な「試合」が今も続いており、日本が望むと望まざるとにかかわらず、巻き込まれる可能性が高まってきました。北朝鮮の核兵器搭載可能な弾道ミサイルが日本列島の上空を通過し、中国海上警察の公船が日本の領海侵犯を繰り返しているのです。武力紛争に巻き込まれないためにはどうすればいいのか、もし巻き込まれた場合はどうするのか、を真剣に議論しないのは、あまりにも無責任だと思います。

【『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠〈もぎ・まこと〉(TAC出版、2019年)】

「ゲームに負けた」というカテゴライズだと戦争とサッカーにさしたる差はない。確かに。それまで馬関戦争薩英戦争など特定の地域が敗れたことはあった。黒船ペリーに膝は屈したものの倒れはしなかった。日米戦争は日本にとって初めての敗北であった。その衝撃はあまりにも大きかった。日本人の精神的な空白状態を衝いてGHQが洗脳を施した(WGIP)。吉田茂首相は粘り腰で老獪(ろうかい)な交渉を行ったが、マッカーサーの顔ばかり窺って国民の表情を見ることがなかった。日本人は一種のPTSD(心的外傷後ストレス障害)状態に陥り、生々しい記憶を封印した。明治以降の急激な近代化を想えば、虐待された幼児のような心理状態であったことだろう。

 敗戦の原因を軍部の暴走に求めるのは左翼史観で日本が民主政であった事実を見失っている。日清戦争の三国干渉以降、日本国民は臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を合言葉にロシアへの報復を待った。その後日露戦争には勝利したものの大きな戦果はなかった。こうした心理的抑圧は第一次世界大戦の戦勝国となったことで益々肥大していったのだろう。抑圧を解消するには戦争をする他なかった。その姿は家庭内暴力に目覚めた中高生のような姿であった。しかし白人帝国主義を打ち破ったわけだから彼らの権益を奪ったことは大いなる戦果とせねばなるまい。

 GHQ支配の往時を知るアメリカ人は日本がいまだに憲法第9条を改正していない事実に皆驚く。「確かに我々はあの時、日本から爪と牙をもぎ取ったが、その後のことは自分たちで選択したのだろう。それをアメリカのせいにするのはお門違いだ」と言う。アメリカからの政治的圧力は現在でもある。日本の政治家は結局吉田茂と同じ道を歩んだといってよい。しかしながらそれは飽くまでも経済面に限られていた。

 戦争アレルギーは1960年代の学生運動や進歩的文化人の言論を通して強化された。彼らの目的は日本を「戦争のできない国」にすることだった。ソ連が侵略する地ならしをしていたのだ。ベトナム戦争反対運動やウーマンリブ運動は何となく時代の先端を行っているようなムードがあった。その後、左翼知識人は犯罪をおかした少年の権利を擁護し、ジェンダー問題(女性の権利)~セクハラ糾弾、環境問題など、手を変え品を変え伝統的文化の破壊を試みている。

 中国や北朝鮮は既に沖縄と北海道を侵略しつつあるが日本政府は何ら対応をしようとしていない。将棋でいえば先手が10手くらい指したような状態だ。ここから挽回するのは難しいだろう。日中戦争は必至と見ているが勝てる見込みが年々薄くなっている。