2015-06-11

星野洋平、西尾幹二、中西輝政、杉浦日向子、他


 1冊挫折、3冊読了。

夏姫春秋』宮城谷昌光(海越出版社、1991年/講談社文庫、1995年)/「かいえつしゅっぱんしゃ」は中京地区のローカル出版社で宮城谷昌光を世に送り出したことで知られる。惜しいことに1999年、自己破産した。本書は直木賞受賞作である。一度読んでいるのだが何と二度目で挫けた。冒頭の近親相姦の生臭さに耐え切れず。しかも40ページほど読む中でこれといって目を惹く文章がなかった。初めて読んだ宮城谷作品だけに思い入れがあったのだが。

 64冊目『江戸へようこそ』杉浦日向子〈すぎうら・ひなこ〉(筑摩書房、1986年/ちくま文庫、1989年)/傑作『お江戸でござる』はリライト作品っぽいので本人の著作に当たった。吉原の章を途中ですっ飛ばし、中島梓との対談を読んだところ、これがまた面白いの何のって。そこで再び吉原の続きから読み直す羽目に。岡本螢との対談以外はほぼ完璧といってよい。杉浦の文章はムダがなくわかりやすい。学界の不毛な論理とは無縁である。尚、文庫版の泉麻人による「解説」は破り捨てるべき代物で、バブル期の売れっ子コラムニストの下衆ぶりが露呈している。

 65冊目『日本文明の主張 『国民の歴史』の衝撃』西尾幹二、中西輝政(PHP研究所、2000年)/一気読み。初顔合わせだという。見識の高い対談だ。中西は遠慮するところがない。西尾の学者としての誠実さを私が知ったのは彼が反原発に転じた時だった。本書を通してそれは確信に変わった。西尾は人間として誠実である。順序は逆となってしまったが一度挫けた『国民の歴史』も何とか半分ほど読み終えたところ。喧しい中西が「『国民の歴史』は、日本人の歴史・文明意識がそうした新しい方向に変わるための『覚醒の書』であったと後世評される可能性は十分ある」と絶賛している。また中西の「日蓮宗は新しいかたちの神道ではないか」との仮説が目を惹いた。吉野作造批判に関しては中西著『国民の文明史』の方が詳しいようだ。

 66冊目『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』星野洋平(鹿砦社、2014年)/話題の本である。四六版より一回り大きいA5判サイズ(実際は横が2mm大きい)で上下二段。よく2000円以下に抑えたものだ。一部飛ばし読み。株式会社バーニングプロダクションの周防郁雄〈すほう・いくお〉社長を取り上げている。北野誠謹慎事件を知る人であれば星野洋平の勇気に注目せざるを得ない。内容は極めてオーソドックスなノンフィクションであり、資料も充実している。韓国は日本よりも酷い情況で、アメリカは組合を結成することでタレントの権利が保障されている。個人的には法学部に通う大学生諸君に読んで欲しいと思う。芸能人とプロダクションとの契約内容を徹底的に批判することで電波の私物化を回避することができると考える。本書で紹介されていた「大日本新政會」のサイトは知らなかった。

2015-06-08

一夜賢者の偈

『スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳』荒牧典俊、本庄良文、榎本文雄訳(講談社学術文庫、2015年)

スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳 (講談社学術文庫)

 かくしてひとり離れて修行し歩くがよい、あたかも一角の犀そっくりになって――。『法句経(ダンマパダ)』とともに原始仏典の中でも最古層とされる『スッタニパータ』。最初期の仏教思想と展開を今に伝えるこの経典は、釈尊に直結する教説がまとめられ、師の教えに導かれた弟子たちが簡素な生活のなかで修行に励み、解脱への道を歩む姿が描き出される珠玉の詞華集である。2400年前の金口直説を平易な現代語で読む。

2015-06-06

鍵山秀三郎、藤原正彦、吉本貞昭、他


 1冊挫折、3冊読了。

宗教vs.国家 フランス〈政教分離〉と市民の誕生』工藤庸子〈くどう・ようこ〉(講談社現代新書、2007年)/23ページで、ヴィクトル・ユゴーの葬儀が無宗教で行われたことを持ち上げ、靖国神社を対照的な位置に置いている。この正味3行に著者の心性・思想性・政治性が露呈する。「無宗教は進歩である」との錯覚を抱いているのだろう。マルクス主義的な匂いを感じた時点で放り投げた。

 61冊目『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭(ハート出版、2012年)/大東亜戦争を賛嘆するアジアの人々の証言が多数収められている。渡辺京二が「滅んだ」とした古き日本の文明は大東亜戦争まで命脈を保っていたように思う。すべての日本人が読むべき一書であると感ずるが敢えて苦言を述べておく。序盤において主語と述語が離れすぎていて文意がわかりにくくなっている。「こうして」「こうした中」の多用が目立つ。そして最も致命的なのは証言がいつどこで行われたのかが不明だ。しかしながら高校の非常勤講師を勤めながら本書を書き上げたのは見事な仕事である。どの証言を読んでも感動を抑えることができなかった。東條英機の孫娘が一文を寄せている。

 62冊目『日本人の誇り』藤原正彦(文春新書、2011年)/これもオススメ。2冊とも「日本の近代史を学ぶ」に追加した。私が保守史観に目覚めた上で最も大きい影響を受けたのが藤原であった。初期のエッセイ集を読んだ際に「この愛国心は理解できる」と感じたのが最初であった。藤原はより多くの日本人に読んでもらうべくわかりやすい文章で綴っており、彼本来の透明で硬質な文体ではない。数学者が本書を著したところに我が国の悲劇的情況がある。本来であれば歴史学者や宗教者が行うべき仕事である。ただし分野の違う藤原が放った言論は架橋となって多くの人々を東京裁判史観の迷妄から解き放ったことだろう。

 63冊目『あとからくる君たちへ伝えたいこと』鍵山秀三郎〈かぎやま・ひでさぶろう〉(致知出版社、2011年)/中学で行った講演二題を収録。twitterでも書いたのだがGLAの高橋佳子〈たかはし・けいこ〉の名前を挙げているのに驚いた。鍵山が説く道徳にも私は「失われた日本の文明」を感じてならない。掃除という凡事を徹底することで東証一部上場のイエローハットを築いた人物だ。成功者というよりも行動する男として私は評価する。

2015-06-05

南京虐殺否定を無断加筆 ベストセラーの翻訳者(藤田裕行)


 米ニューヨーク・タイムズ紙の元東京支局長が、ベストセラーの自著「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)で、日本軍による「『南京大虐殺』はなかった」と主張した部分は、著者に無断で翻訳者が書き加えていたことが8日明らかになった。

 英国人の著者ヘンリー・ストークス氏は共同通信に「後から付け加えられた。修正する必要がある」と述べた。翻訳者の藤田裕行氏は加筆を認め「2人の間で解釈に違いがあると思う。誤解が生じたとすれば私に責任がある」と語った。

 同書はストークス氏が、第2次大戦はアジア諸国を欧米の植民地支配から解放する戦争だったと主張する内容。「歴史の事実として『南京大虐殺』は、なかった。それは、中華民国政府が捏造したプロパガンダだった」と記述している。

 だがストークス氏は「そうは言えない。(この文章は)私のものでない」と言明。「大虐殺」より「事件」という表現が的確とした上で「非常に恐ろしい事件が起きたかと問われればイエスだ」と述べた。

 藤田氏は「『南京大虐殺』とかぎ括弧付きで表記したのは、30万人が殺害され2万人がレイプされたという、いわゆる『大虐殺』はなかったという趣旨だ」と説明した。

 だが同書中にその説明はなく、ストークス氏は「わけの分からない釈明だ」と批判した。

 同書は昨年12月に発売、約10万部が売れた。ストークス氏単独の著書という体裁だが、大部分は同氏とのインタビューを基に藤田氏が日本語で書き下ろしたという。藤田氏は、日本の戦争責任を否定する立場。ストークス氏に同書の詳細な内容を説明しておらず、日本語を十分に読めないストークス氏は、取材を受けるまで問題の部分を承知していなかった。

 関係者によると、インタビューの録音テープを文書化したスタッフの1人は、南京大虐殺や従軍慰安婦に関するストークス氏の発言が「文脈と異なる形で引用され故意に無視された」として辞職した。

【共同通信 2014-05-08】

英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄(祥伝社新書)




 コメントで著者が共同通信社の記事を否定していることを知った。

『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』に関する各社報道について(PDF)