2018-03-09

オールド・リベラリズムの真髄/『昭和の精神史』竹山道雄


 ・オールド・リベラリズムの真髄
 ・竹山道雄の唯物史観批判
 ・擬似相関
 ・新しい動きは古い衣裳をつけてあらわれる

『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄
『ビルマの竪琴』竹山道雄
『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄
『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘編
『精神のあとをたずねて』竹山道雄
『時流に反して』竹山道雄
『みじかい命』竹山道雄

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 近頃『太平洋戦争』という記録映画を見た。マキン、タラワをはじめとして硫黄島などの凄惨(せいさん)な場面や、レイテ湾で特攻隊がつぎつぎと海に落ちてゆくありさまを目のあたりにして、自分の3人の従弟やそのほかの知人たちはあのようにして死んでいったのか――と、感慨がふかかった。そして、「それにしても、何故ああいうことになったのだろう?」という、いつも胸にひそんでいる疑念が頭をもたげるのを抑えかねた。これが納得のいくまでは、まだ戦争の後始末がすんでいないような気がする。

【『昭和の精神史』竹山道雄(新潮叢書、1956年)/講談社学術文庫、1985年/中公クラシックス、2011年/藤原書店、2016年】

『昭和の精神史』は、もと「十年の後に」と題して雑誌『心』に昭和30(1955)年8月から12月にかけて連載された。『心』は和辻哲郎津田左右吉武者小路実篤小泉信三安倍能成ら、いわゆる「オールド・リベラリスト」が結集して、昭和23(1948)年に創刊した同人誌で、戦後の左翼的原論の流行に抵抗しようとする保守派知識人の発表機関であった。竹山氏はそのなかでもおそらくもっとも若い同人の一人であったろう。

【「昭和日本への反時代的証言」芳賀徹〈はが・とおる〉(中公クラシックス版)】

 百田尚樹のツイートが本書を読む契機となった。


 戦後の保守論客といえば小林秀雄竹山道雄福田恆存の名が直ぐに浮かぶが、竹山は保守で括りきれない人物で、やはりリベラリストと呼ぶのが相応(ふさわ)しい。

 現実を直視する眼差し、過激に走らぬ温厚な思考、伝統の重みを軽んじない所作、時流の変化に「待った」をかける慎重さ――どの文章にもこうした姿勢や態度が見られ、オールド・リベラリズムの真髄を仰ぐような思いに駆られた。小林秀雄のような騒がしさが竹山には微塵もない。激動の時代にあっても自分の歩調を決して変えることのなかった人だ。更に学者の分を弁えていて妙な精神論を吹き込むようないかがわしさもない。刺激に慣れすぎていると竹山の文章は何となく物足りなく感じてしまうが、それは自分が抑制を知らぬことを晒(さら)しているのだ。

「それにしても、何故ああいうことになったのだろう?」――国民が朝鮮特需(1950-55年)に沸き、知識人が声高に進歩を叫んでコミュニズムに走る中で、戦争に敗れてから「十年の後に」発した問いの重みが私の手足にのしかかる。それは決して無責任なものではなく、歴史の高波を生きてきた人間が歴史の意味合いを探る真剣な営みであった。大東亜戦争はそれほどわかりにくい戦争であった。日本の近代史に関する書物を100冊以上読んできた私も全く同じ感を抱いている。

 同じく敗戦を直視した人物に三島由紀夫がいる。三島は行動し、敗れ、自決した。高度経済成長に酔う人々は彼を嘲笑した。この時日本は本当の意味で亡んだのだろう。林房雄は『大東亜戦争肯定論』でペリー提督率いる黒船襲来(1953年)から大東亜戦争敗戦(1945年)までを「東亜百年戦争」と名づけたが、そのピリオドを打ったのが三島その人であった。

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乾極と湿極の地政学/『新・悪の論理』倉前盛通

2018-03-03

GHQは日本の自衛戦争を容認/『いちばんよくわかる!憲法第9条』西修


『憲法と平和を問いなおす』長谷部恭男

 ・GHQは日本の自衛戦争を容認

『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温
・『だから、改憲するべきである』岩田温
『日本人のための憲法原論』小室直樹
『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八
『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖

 それでは、「国際紛争解決のための戦争」とは何でしょうか。この戦争に自衛戦争が含まれるのでしょうか。この問いに対して、条約の提案者、ケロッグ米国務長官ははっきり述べています。
「(自衛権は、)すべての主権国家に固有のものであり、すべての条約に暗黙に含まれている。すべての国は、どのようなときでも、また条約の規定のいかんを問わず、自国領域を攻撃または侵入から守る自由をもち、また事態が自衛のための戦争に訴えることを必要ならしめるか否かを決定する権限を有する」(1928年4月28日、米国国際法学会における講演)
 ブリアンもまったく同じ考えでした。このような共通認識のもとに、当初、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本など15カ国が署名、のちにソ連などが加わり、同条約の参加国は63カ国にまでなりました。
 このようなことから、「紛争を解決するための手段としての戦争」は、侵略戦争を意味し、自衛戦争を含まないというのが、国際的な理解でした。マッカーサーも、このことは十分に理解していました。
 ちなみにマッカーサーは、超エリート軍人の登竜門である陸軍士官学校(所在地からウエストポイントと呼ばれる)を首席で卒業し、4年間の成績の平均点は98.14点、いくつかの科目はウエストポイントが始まって以来の100点満点だったと伝えられています。39歳で史上最年少の将軍に昇進(陸軍士官学校長)、さらに50歳まで参謀長を歴任するという経歴の持ち主です。
 マッカーサーは、「不戦条約」の規定を承知のうえで、日本の憲法に侵略戦争だけでなく、自衛戦争をも放棄することを規定しなければならないと考えていたのです。

【『いちばんよくわかる!憲法第9条』西修〈にし・おさむ〉(海竜社、2015年)】

 マッカーサーが修正を加えた総司令部案をチャールズ・L・ケーディス陸軍大佐(民政局次長・運営委員会委員長)が更に修正したものが現行憲法の第9条となっている。

西●あなたは「マッカーサー・ノート」に定められていた全面的な戦争放棄を部分的な戦争放棄に変更なさったそうですが、事実でしょうか。

ケーディス●そのとおりです。私は例の黄色い紙(西注:「マッカーサー・ノート」をさす)にかかれていた「自己の安全を保持するための手段としてさえも」の文言を削除しました。そしてその代わりに、「戦争」のみならず、「武力による威嚇または武力の行使」をも放棄するように加えました。なぜならば、「自己の安全を保持するための手段としてさえもの戦争放棄」を憲法に規定すれば、日本が攻撃されてもみずからを守ることができないことになり、そのようなことは現実的ではないと思えたからです。私は、どの国家にも自己保存の権利があると思っていました。日本は、他国の軍隊に上陸された場合、みずから防衛することは当然できるはずです。ただ座して侵略を舞ったり、侵略者に我が物顔でのし歩かせる必要はないでしょう。

 昭和20年(1945年)のアメリカ軍人にはまだ常識があったという歴史的事実を忘れてはならないだろう。ところがどっこい現在の日本にはこの常識に反対する勢力が存在するのだから恐ろしい。実に憲法学者の6割が「自衛隊を違憲」と主張してはばからない。国民から大東亜戦争の記憶が薄れるにつれて平和ボケの度合いは重篤となった。

 憲法改正の機運が高まったのは2001年のアメリカ同時多発テロ事件の影響が大きい。NHKの世論調査でも2002年に「改正する必要がある」との声が過半数を大きく超えた。次に2011年の東日本大震災で自衛隊の存在が脚光を浴び、国民からの大きな支持を得たことも憲法改正の動機となっている。そして竹島・尖閣を巡る領土問題や、昨今の中国・北朝鮮による領海・領空侵犯を通して日本国民はようやく目覚めつつあるというのが現状だろう。

 2017年5月3日の憲法記念日に開催された「第19回公開憲法フォーラム」に安倍首相がビデオメッセージを寄せ「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」との抱負を語った。因みに西修も登壇している。これを機にメディアは一斉に森友学園・加計学園問題で安倍夫妻を叩き始めた。「朝日新聞は倒閣運動に舵を切った」と須田慎一郎は語る。

 ジャーナリズムが偏向報道を繰り返せば民主政は機能しない。一方、国民の側に情報開示を迫る意欲があるかといえばそうでもない。何となくテレビを見て、何となく怪しいと感じている人が大半だろう。安倍首相が議会で度々指摘する「印象操作」が奏功しているのだ。

 マッカーサーが日本から自衛権すら奪おうとしたのは日本軍の強さ、なかんずく玉砕するまで一歩も退くことのない精神性を恐れたからに他ならない。日本は戦争には敗れたがアジアを植民地から解放するという戦争目的は結果的に果たした。しかも厳密に見れば日本が敗れたのはアメリカだけであり、イギリス・フランス・オランダは完全に斥(しりぞ)けたのだ。有色人種の歴史としては日露戦争に次ぐ革命的壮挙であったことは確かであろう。

 敗戦のどさくさに紛れてGHQは、日本という国家から牙はおろか爪までもぎ取ろうとした。その象徴が日本国憲法であった。吉田茂は経済復興を最優先するために軍事面はアメリカに依存する道を選んだ。ここを外すと議会でのあやふやな発言を読み誤ってしまう。

 吉田は後々独立した軍隊をつくるつもりであったが、戦中から要所要所に巣食っていた左翼分子が戦後になると大手を振って闊歩し始めた。知識人は進歩の風に染め抜かれ、大学生は民主化を要求し、加えて反戦デモを強行するに至った。実に戦後の四半世紀は左からの旋風に世界が巻き込まれたといってよい。

 日本の来し方を思えば憲法を改正するのは当然の帰結である。反対勢力は憲法9条に問題を矮小化する傾向があり、9条擁護を唱える連中はその殆どが天皇制に反対する勢力であることを見逃してはならない。

 とはいうものの具体的な改正となると困難を極めることだろう。ゆえに安倍首相は公明党の加憲に歩み寄ったのだ。にもかかわらず公明党は今もなお政府を牽制し続けている。与党内ですら一致しないものを国民のレベルでまとめることは無理だろう。すなわちこの国は自分で憲法を決めることもできない政治レベルなのだ。

 そんな日本の政治情況に国際情勢は歩調を合わせてくれない。平和ボケという宿痾(しゅくあ)から脱するためには、【米軍が日本から撤退~中国による日本攻撃】という図式しか今のところ浮かばない。2020年代には日中戦争が現実になることだろう。次期首相が日本の命運を決する。



GHQはハーグ陸戦条約に違反/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

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